国際情報

韓国に引き抜かれた技術者 報酬は「おおむね3年で1億円」

 2012年3月期決算で7721億円という過去最大の赤字を計上したパナソニック。不振が続くなか、これまで大量のリストラを断行してきたことの弊害も生じている。

「3年間で、日本で働く10年分の報酬を出す会社もあるそうだ。向こうのリチウムイオン電池の技術は一気に進む」

 三洋電機の最後の社長を務めた佐野精一郎(パナソニック常任監査役)は、三洋の社長時代に筆者にこう語ったことがある。日本の技術者がサムスンをはじめとする韓国メーカーや中国メーカーに引き抜かれる時の“相場”の話だ。別の元幹部が補足する。

「リチウムイオン電池では、長年トップメーカーだった三洋やパナソニックからも、韓国メーカーにずいぶん行ったようです。おおむね3年で1億円という好条件でしたが、使えなければすぐに帰される厳しい世界。ただ、技術がキャッチアップしてきたせいか、最近はスカウトは少ない」

 リチウムイオン電池は電気自動車(EV)の心臓部。ノートパソコンや携帯にも使われる。日本が世界をリードする代表的な先端技術だが、韓国および中国企業から猛烈な追い上げを受けている。

 日本は“失われた20年”の間、半導体のDRAM、液晶パネルで韓国勢に逆転を許した。その背景に人材流出があることはよく知られている。リチウムイオン電池の優れた技術を持っていた三洋は特に狙われた。三洋をリストラされた団塊世代の元社員が語る。

「三洋もパナソニックも業績不振から大量のリストラをした。そのため愛社精神が薄れ、ホイホイ韓国企業に転職するようになったのです。知り合いの技術者も転職しました」

 いまや、サムスンSDIは三洋を取り込んだパナソニックに肉薄し、特にノートパソコンなど小型民生用ではシェアを武器に低価格攻勢に出ている。リチウムイオン電池の技術と販売戦略で、どう海外勢を突き放すのかが今のパナソニックの課題となっている。(本文中敬称略)

■永井隆(ジャーナリスト)と本誌取材班

※SAPIO2012年11月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン