スポーツ

1990年代黄金期のヤクルト 古田の控えに優れた二番手の存在

 プロ野球の世界には代打、代走、守備固め……二番手には様々な選手が存在するが、その中で最も存在感を放つのが、「控え捕手」である。扇の要である捕手は、最も優秀な“影武者”を必要とする。強いチームであればあるほど、優れた控え捕手がいて、どちらがマスクを被っても戦力がダウンしないよう編成されているものだ。

 1990年代に黄金時代を迎えたヤクルトにも、優れた控え捕手がいた。当時の正捕手は1989年のドラフト2位でトヨタ自動車から入団した古田敦也。その控えだったのが、同年ドラフト外で習志野高から入団した野口寿浩だ。『ドラフト外』(河出書房新社)の著書があるノンフィクションライターの澤宮優氏は、光る二番手として、この野口がまず頭に浮かぶという。

「古田は即戦力の社会人、野口は高卒ルーキー。立場は違いますが、野口の方が肩も強く二塁への送球では上だったし、打撃も古田よりパンチ力があった。劣っていたのはリード面。当時は“ID野球の申し子”として野村克也監督が古田を使い続けたこともあり、野口は長く控えに回ることになりました」

 1994年のこと。シーズン途中、古田がケガで長期間欠場し、出番が回ってきた。スタメン起用では何度か猛打賞をマーク。一軍でやれることを証明したが、古田が戻るとまた控えとなった。

「そこから彼の苦悩が始まりました。自信がついただけに、試合に出たくてたまらなかったはずです。そして、1998年に自らトレードを志願して日本ハムへ移籍。すぐにレギュラーになって、オールスターにも2回出場しました」(澤宮氏)

 2003年、阪神に移籍。広島の金本知憲らと同時だったが、当時の星野仙一監督をして「野口が一番の補強」といわしめた。しかし、ここでも再び正捕手・矢野輝弘の控えに回る。ただ、エース級投手の“ご指名”を受けて生き残った。井川慶がノーヒット・ノーランを達成したときにマスクを被っていたし、現エースの能見篤史の入団以来、女房役を務めたのも野口だった。2009年オフにFAで横浜に移籍し、翌年引退する。

「当初課題とされたリードも、経験を積むにつれて独自性を出していきました。古田のリードが打者の嫌がるところを突くリードならば、野口のそれは、投手のその日一番いい球をどんどん要求するメジャー流。出場機会を求めるなら、打力と肩を活かして外野にコンバートという選択肢もあったでしょうが、どんなに冷や飯を食わされても、最後まで二番手の捕手としてプレーした。それは彼の誇りといえるでしょう」(澤宮氏)

(文中敬称略)

※週刊ポスト2013年3月15日号

関連記事

トピックス

サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(時事通信フォト)
《総スカン》違法薬物疑惑で新浪剛史サントリー元会長が辞任 これまでの言動に容赦ない声「45歳定年制とか、労働者を苦しめる発言ばかり」「生活のあらゆるとこにでしゃばりまくっていた」
NEWSポストセブン
「第42回全国高校生の手話によるスピーチコンテスト」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
《ヘビロテする赤ワンピ》佳子さまファッションに「国産メーカーの売り上げに貢献しています」専門家が指摘
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《エプスタイン事件の“悪魔の館”内部写真が公開》「官能的な芸術品が壁にびっしり」「一室が歯科医院に改造されていた」10代少女らが被害に遭った異様な被害現場
NEWSポストセブン
香港の魔窟・九龍城砦のリアルな実態とは…?
《香港の魔窟・九龍城砦に住んだ日本人》アヘン密売、老いた売春婦、違法賭博…無法地帯の“ヤバい実態”とは「でも医療は充実、“ブラックジャック”がいっぱいいた」
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、インスタに投稿されたプライベート感の強い海水浴写真に注目集まる “いいね”は52万件以上 日赤での勤務をおろそかにすることなく公務に邁進
女性セブン
岐路に立たされている田久保眞紀・伊東市長(共同通信)
“田久保派”の元静岡県知事選候補者が証言する “あわや学歴詐称エピソード”「私も〈大卒〉と勝手に書かれた。それくらいアバウト」《伊東市長・学歴詐称疑惑》
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
「少女を島に引き入れ売春斡旋した」悪名高い“ロリータ・エクスプレス”にトランプ大統領は乗ったのか《エプスタイン事件の被害者らが「独自の顧客リスト」作成を宣言》
NEWSポストセブン
東京地裁
“史上最悪の少年犯罪”「女子高生コンクリート詰め事件」逮捕されたカズキ(仮名)が語った信じがたい凌辱行為の全容「女性は恐怖のあまり、殴られるままだった」
NEWSポストセブン
「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路とは…(写真/イメージマート)
【1500万円が戻ってこない…】「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路「経歴自慢をする人々に囲まれ、次第に疲弊して…」
NEWSポストセブン
橋幸夫さんが亡くなった(時事通信フォト)
《「御三家」橋幸夫さん逝去》最後まで愛した荒川区東尾久…体調不良に悩まされながらも参加続けていた“故郷のお祭り”
NEWSポストセブン
麻原が「空中浮揚」したとする写真(公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」より)
《ホーリーネームは「ヤソーダラー」》オウム真理教・麻原彰晃の妻、「アレフから送金された資金を管理」と公安が認定 アレフの拠点には「麻原の写真」や教材が多数保管
NEWSポストセブン
”辞めるのやめた”宣言の裏にはある女性支援者の存在があった(共同通信)
「(市議会解散)あれは彼女のシナリオどおりです」伊東市“田久保市長派”の女性実業家が明かす田久保市長の“思惑”「市長に『いま辞めないで』と言ったのは私」
NEWSポストセブン