スポーツ

国民栄誉賞の長嶋&松井 ともに敬遠から奇縁・宿縁を生んだ

 長嶋茂雄と松井秀喜の国民栄誉賞の同時受賞。野球の神様が差配したかのような二人の生き様。後に師弟となる両者が初めて交わったのは、1992年のことだった。

 13年振りの巨人監督復帰を翌年に控えたその年、長嶋の初仕事が同年秋のドラフト会議で“超高校級”と評された松井の籤(くじ)を引く事である。

 松井が時の人になったのはドラフトから遡ること3か月前、甲子園での5打席連続敬遠劇によってだった。この時初めて長嶋は松井についてコメントしている。

「高校球界ではナンバーワンのバッターでしょう。テレビで見ていたんですが4回も続けて敬遠され、正直な話、むかつきましたよ。でも松井君は冷静でした……」

 第一期巨人監督(1974~1980年)からの退任以後、雌伏の時を過ごしていた当時の長嶋が、松井のことを次期巨人軍の戦力と見ていたかは定かではない。

 それでも長嶋は松井の資質を見抜く言葉を発している。

「4回も敬遠された彼が次にどんなバッティングをするんだろうという興味にかわった。結果は5打席目も敬遠されたけど、松井君の態度は実に立派で男らしかった」

 その姿勢に野球人としての松井の将来をみたのは、長嶋も数多の敬遠に辛酸をなめてきたからだろう。

 巨人黄金期、チャンスに無類の強さを発揮する長嶋を得点機に打席に迎えることは、バッテリーとしては脅威だった。

 球史に残るのが1968年5月11日の中日戦。2死二塁の場面で長嶋を一塁に歩かせることを選んだ山中巽投手に対して、長嶋は3球目からバットを持たずに打席に入った。球場は揺れに揺れた。山中投手も一瞬、顔色をかえたが結局、長嶋に対し2球続けてボールを投じた。

 長嶋のあからさまな挑発には賛否が分かれたが、野球とはチームの勝ち負け以前に、男と男の真剣勝負であることを改めてファンに知らしめた。

 敬遠といえば長嶋にはもう一つ知られざる逸話がある。

 1973年8月14日のヤクルト戦。今度は長嶋が王貞治の5打席連続敬遠をネクストバッターズサークルで目撃する。敵将は“魔術師”三原脩。勝利には奇策もいとわない三原は打率3割5分、本塁打31本の四番・王より、打撃に翳りが見えつつあった五番長嶋の方が与し易し、とみた。

 結果は1安打こそ放ったものの、得点機の打席でことごとく凡退。長嶋はベンチにヘルメットを投げつけ、悔しさを露わにした。

 試合後、顔を真っ赤にしながら、「今日は本当についていない」と長嶋は嘆く。だが、相手の采配については一切難癖をつけなかったという。

 俺と勝負せよ、と素手で打席にたった日から5年。敵将の非情采配になすすべのない自らを知るにつけ、球界の中心が長嶋から王へとかわったことに気づかされたのである。

 翌年、長嶋は引退した。

 敬遠に怒り、敬遠に泣いた長嶋。一方、5打席連続敬遠では悔しさを押し殺した松井。敬遠に際して動と静の対照的な表情をみせた二人は師弟として交わり、巨人軍の一時代を築いた。

※週刊ポスト2013年5月24日号

トピックス

多忙なスケジュールのブラジル公式訪問を終えられた佳子さま(時事通信フォト)
《体育会系の佳子さま》体調優れず予定取り止めも…ブラジル過酷日程を完遂した体力づくり「小中高とフィギュアスケート」「赤坂御用地でジョギング」
NEWSポストセブン
麻薬密売容疑でマグダレナ・サドロ被告(30)が逮捕された(「ラブ・アイランド」HPより)
ドバイ拠点・麻薬カルテルの美しすぎるブレイン“バービー”に有罪判決、総額103億円のコカイン密売事件「マトリックス作戦」の攻防《英国史上最大の麻薬事件》
NEWSポストセブン
広島県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年6月、広島県。撮影/JMPA)
皇后雅子さま、広島ご訪問で見せたグレーのセットアップ 31年前の装いと共通する「祈りの品格」 
NEWSポストセブン
無期限の活動休止を発表した国分太一(50)。地元でもショックの声が──
《地元にも波紋》「デビュー前はそこの公園で不良仲間とよくだべってたよ」国分太一の知られざる “ヤンチャなTOKIO前夜” 同級生も落胆「アイツだけは不祥事起こさないと…」 【無期限活動停止を発表】
NEWSポストセブン
政治学者の君塚直隆氏(本人提供)
政治学者・君塚直隆氏が考える皇位継承問題「北欧のような“国民の強い希望”があれば小室圭さん騒動は起きなかった」 欧州ではすでに当たり前の“絶対的長子相続制”
週刊ポスト
TOKIOの国分太一(右/時事通信フォトより)
《あだ名はジャニーズの風紀委員》無期限活動休止・国分太一の“イジリ系素顔”「しっかりしている分、怒ると“ネチネチ系”で…」 “セクハラに該当”との情報も
NEWSポストセブン
月9ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』主演の中井貴一と小泉今日子
今春最大の話題作『最後から二番目の恋』最終話で見届けたい3つの着地点 “続・続・続編”の可能性は? 
NEWSポストセブン
『ザ!鉄腕!DASH!!』降板が決まったTOKIOの国分太一
《どうなる“新宿DASH”》「春先から見かけない」「撮影の頻度が激減して…」国分太一の名物コーナーのロケ現場に起きていた“異変”【鉄腕DASHを降板】
NEWSポストセブン
出廷した水原被告(右は妻とともに住んでいたニューポートビーチの自宅)
《水原一平がついに収監》最愛の妻・Aさんが姿を消した…「両親を亡くし、家族は一平さんだけ」刑務所行きの夫を待ち受ける「囚人同士の性的嫌がらせ」
NEWSポストセブン
夫・井上康生の不倫報道から2年(左・HPより)
《柔道・井上康生の黒帯バスローブ不倫報道から2年》妻・東原亜希の選択した沈黙の「返し技」、夫は国際柔道連盟の新理事に就任の大出世
NEWSポストセブン
新潟で農業を学ことを宣言したローラ
《現地徹底取材》本名「佐藤えり」公開のローラが始めたニッポンの農業への“本気度”「黒のショートパンツをはいて、すごくスタイルが良くて」目撃した女性が証言
NEWSポストセブン
1985年春、ハワイにて。ファースト写真集撮影時
《突然の訃報に「我慢してください」》“芸能界の父”が明かした中山美穂さんの最期、「警察から帰された美穂との対面」と検死の結果
NEWSポストセブン