国内

地震予測の東大名誉教授 学者や気象庁から軽く見られる理由

 1995年の阪神・淡路大震災を契機に、GPSデータを測定する電子基準点が国土交通省によって日本全国に配備された。しかし、このデータは国土地理院が「地震の後に土地がどれだけ動いたのか」を測量するためには利用されてきたが、地震の予測には使われてこなかったという。

「電子基準点は全国に1243か所もあります。これほどGPSが網の目のように張りめぐらされている国は、世界中でも日本だけ。そのデータが2002年頃から使えるようになったのです。我々は、2000~2007年に起きたマグニチュード6以上の地震162個全ての追跡調査を行ないました。すると、地震の前に何らかの前兆現象が見られることがわかったのです」

 こう話すのは、東京大学名誉教授で、測量学の世界的権威である村井俊治氏だ。同氏は自ら顧問を務める民間会社JESEA(地震科学探査機構)を通じて、会員向けに地震予測のメールマガジンを開始。4月13日に淡路島で起きた地震の前兆現象も事前に掲載されていた。

 前兆現象とは、「地殻の微小な変動」のことである。GPSの特徴は、地球の重心を原点として電子基準点の赤道面方向(X軸、Y軸)へのズレだけでなく、天頂方向(Z軸)へのズレも観測できること。つまり、地殻が沈み込んだりする動きもキャッチすることが可能なのだ。村井氏は、電子基準点のX、Y、Z三次元の座標軸の動きを測量。さらに3点の電子基準点を結んだ三角形の面積変動率を計測することで、地殻の微小な変動を解析した。

 そして2006年には、共同研究者の工学博士・荒木春視氏とともに「地震・火山噴火予知方法」という特許を取得するに至ったのである。

「過去の解析例では、正確に何日後に地震が起きるとまでは予測できていません。しかし、最初の前兆現象からほぼ5週間以内に地震が起きていることはたしかです」(村井氏)

 本誌記者も、村井氏の案内で東京都世田谷区の電子基準点を訪れたが、高さ5メートルの金属製の塔の側面には、「この受信データは、土地の測量、地図の作成、地震・火山噴火予知の基礎資料に利用されます」と明記されていた。

 ただし、電子基準点の観測データは、アンテナへの積雪や周辺の樹木の繁り方、道路工事などで「ノイズ」が発生することもある。JESEAでは継続して電子基準点の動きを観察し、その時間的な傾向(トレンド)を把握、そこから大きく乖離した動きが10日以上続く場合には、地震の可能性が高いという予測を発表している。乖離が短期間であれば「ノイズ」と判断するというわけだ。

 地震の大きさは電子基準点がX、Y、Z軸のどの方向に動いているかで判断。1方向の場合は、「震度4以下」、2方向では「震度5クラス」、3方向で大きく動いている場合は、「震度6以上の大地震」の可能性があるとしている。

 では、東日本大震災にも“前兆現象”はあったのか。上に示したのは、震災の2週間前、3週間前、4週間前の地殻の変動データである。これを見ると、宮城県を中心に広い範囲で前兆が現われていたことは明らかだ。とくに3週間前には、牡鹿半島付近で3軸全てがトレンドから乖離した、“大地震の可能性”が観測されていた。

「一度大きな動きがあった後、鎮まったかなというところで大地震が起こるのは、過去のケースでも認められたよくあるパターンです」(村井氏)

 東日本大震災の前兆現象はたしかにあったのだ。もし、この予測方法が知られていたら……。そんな考えが頭をよぎるが、そもそも「門外漢」の村井氏の予測は、国にも地震学者にも相手にされてはいなかった。

「東日本大震災前は、地震予知連絡会という国の機関が、“勝手に地震予知という言葉を使ってはいけない”といっていたんです。しかし、今後、犠牲者を1人でも少なくするためにも、大地震には前兆現象があることをより多くの人に知ってもらいたいと思い、気象庁に『地震予測をやりたい』と連絡しました。

 そうしたら、『おおいにやって結構です』という思わぬ返事がありました。ただし、『民間人がやるのは“占い”だと思っています』ともいわれましたが」(村井氏)

 わずかに門戸が開かれたとはいえ、いまだに村井氏の研究はキワモノ扱いなのである。

※週刊ポスト2013年5月24日号

関連記事

トピックス

10月に公然わいせつ罪で逮捕された草間リチャード敬太被告
《グループ脱退を発表》「Aぇ! group」草間リチャード敬太、逮捕直前に見せていた「マスク姿での奇行」 公然わいせつで略式起訴【マスク姿で周囲を徘徊】
NEWSポストセブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《梨園に誕生する元アイドルの嫁姑》三田寛子と能條愛未の関係はうまくいくか? 乃木坂46時代の経験も強み、義母に素直に甘えられるかがカギに
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(クマの画像はサンプルです/2023年秋田県でクマに襲われ負傷した男性)
ヒグマが自動車事故と同等の力で夫の皮膚や体内組織を損傷…60代夫婦が「熊の通り道」で直面した“衝撃の恐怖体験”《2000年代に発生したクマ被害》
NEWSポストセブン
対談を行った歌人の俵万智さんと動物言語学者の鈴木俊貴さん
歌人・俵万智さんと「鳥の言葉がわかる」鈴木俊貴さんが送る令和の子どもたちへメッセージ「体験を言葉で振り返る時間こそが人間のいとなみ」【特別対談】
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン
佳子さまの“ショッキングピンク”のドレスが話題に(時事通信フォト)
《5万円超の“蛍光ピンク服”》佳子さまがお召しになった“推しブランド”…過去にもロイヤルブルーの “イロチ”ドレス、ブラジル訪問では「カメリアワンピース」が話題に
NEWSポストセブン
「横浜アンパンマンこどもミュージアム」でパパ同士のケンカが拡散された(目撃者提供)
《フル動画入手》アンパンマンショー“パパ同士のケンカ”のきっかけは戦慄の頭突き…目撃者が語る 施設側は「今後もスタッフ一丸となって対応」
NEWSポストセブン
大谷翔平を支え続けた真美子さん
《大谷翔平よりもスゴイ?》真美子さんの完璧“MVP妻”伝説「奥様会へのお土産は1万5000円のケーキ」「パレードでスポンサー企業のペットボトル」…“夫婦でCM共演”への期待も
週刊ポスト
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン