国際情報

韓国 元徴用工賠償判決は法も条約も無視する野蛮社会の証明

 韓国の裁判所が日本企業に戦時中の元徴用工への個別賠償を命じる判決を言い渡した。48年前に解決済みの問題をなぜ今になって蒸し返すのか。その実態を追うと韓国が法治国家の体をなしていないことがわかる。

 7月、朝鮮半島の日本統治時代に強制徴用された韓国人とその遺族が日本企業に個人賠償を求めた訴訟で、ソウル高裁は新日鉄住金に対し、原告4人に1人あたり1億ウォン(約880万円)を、また釜山高裁は三菱重工に対し、原告5人に1人あたり8000万ウォン(約700万円)を賠償するよう命じた。

 徴用工の賠償問題については、日韓両政府ともに1965年の「日韓請求権協定」で「完全」かつ「最終的」に解決されたとの立場で一致している。1997年に日本で起こされた裁判では、同協定で解決済みとされ、2003年に原告側が敗訴した。韓国で争われていた前出・訴訟の一審二審でも日本での確定判決の効力を認め、原告側の訴えは退けられた。

 にもかかわらず協定を破棄するような判決がなぜ相次いだのか。その発端は昨年5月の大法院(日本の最高裁に相当)の司法判断にある。

「日本の判決は、植民地支配は合法であるという認識を前提に、国家総動員法の原告への適用を有効であると評価しているが、これは強制的な動員自体を違法とみなす韓国憲法の価値観に反している」
「反人道的な不法行為である強制徴用は日韓請求権協定の適用外」

 こうした理屈で元徴用工の個人請求権を全面的に認め、二審判決を破棄、審理を高裁に差し戻したのだ。それを受け、日本企業側に個人賠償を命じたのが冒頭の高裁判決だった。被告のうち新日鉄住金は上告、三菱重工も上告を予定しているというが、司法判断が覆される可能性は低い。

 韓国の司法に危機感を募らせる堀内恭彦弁護士は言う。

「韓国人が日本の企業に強制動員されたのは国家総動員法に基づくもの。そうした当時の法律も考慮した上ですべてを解決しようとしたのが日韓請求権協定だったはずです。その中には個人の請求権も含まれるというのは当たり前の帰結です。

 しかも外交資料によると、日韓請求権協定締結の交渉過程で、日本側は韓国側に『元徴用工の名簿を出してもらえれば、日本政府が個別に賠償する』と申し出ています。それに対して韓国側は『個別の補償は韓国政府が行なう』と回答。そこで日本側は一括してお金を渡しています。そのような経緯から見ても、元徴用工の請求権への補償義務は日本にはありません。韓国政府が負っているのです」

 協定に基づき日本から韓国に経済援助資金5億ドル(無償供与3億ドル、政府借款2億ドル)が提供された。当時の朴正煕大統領は日本からの援助資金を原資に、ソウル―釜山間の京釜高速道路や浦項製鉄所(現ポスコ)、後に冬のソナタで有名になった春川の多目的ダムなどを建設。それらは「漢江の奇跡」といわれた韓国の高度成長を支える社会基盤となった。

 過去の国家間の約束を反故にする動きは今に始まったことではない。日韓問題に詳しい西岡力・東京基督教大学教授が解説する。

「2005年、日韓請求権協定を巡る外交文書が韓国で公開された際、当時の盧武鉉政権は『韓日会談文書公開の後続対策に関する民官共同委員会』なる組織を立ち上げました。2006年3月、委員会は『慰安婦問題については会談で議題になっておらず、請求権協定の適用外であり、日本の賠償責任を追及していく』という方針を発表しました。

 慰安婦は貧困による人身売買の被害者であって外交的には問題とされなかった。だから議題にならなかっただけなのにもかかわらずです。『適用外』を持ち出して解決済みの問題を蒸し返し始めたのはこの頃からです。それが国家賠償に関して韓国政府が日本と交渉しないのは違憲だとする2011年8月の憲法裁判所判決に繋がっていきます」

 しかし、この時、徴用工については明確に「適用内」としている。
 
「さすがに盧武鉉政権も元徴用工の賠償問題については日韓請求権協定の適用内であり、日本側に追加の賠償を要求するのは困難との結論に達しました。そこで国内法を制定して支援を行なうこととしました」(西岡氏)

 しかし大法院は「日本の朝鮮統治は違法な占領」という「後付けの理屈」で元徴用工の賠償問題を日韓請求権協定の適用外とした。

 もし判決が確定すれば、「協定の適用外」が乱発され日本統治時代のあらゆる事象について日本政府や民間企業に賠償を求める動きが加速するのは想像にかたくない。そのように協定や条約を事実上破棄するような無法がまかり通れば国家間の合意など意味がなくなってしまう。

※SAPIO2013年10月号

関連キーワード

トピックス

新関脇・安青錦にインタビュー
【独占告白】ウクライナ出身の新関脇・安青錦、大関昇進に意欲満々「三賞では満足はしていない。全部勝てば優勝できる」 若隆景の取り口を参考にさらなる高みへ
週刊ポスト
受賞者のうち、一際注目を集めたのがシドニー・スウィーニー(インスタグラムより)
「使用済みのお風呂の水を使った商品を販売」アメリカ人気若手女優(28)、レッドカーペットで“丸出し姿”に賛否集まる 「汚い男子たち」に呼びかける広告で注目
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
《出所後の“激痩せ姿”を目撃》芸能活動再開の俳優・新井浩文、仮出所後に明かした“復帰への覚悟”「ウチも性格上、ぱぁーっと言いたいタイプなんですけど」
NEWSポストセブン
”ネグレクト疑い”で逮捕された若い夫婦の裏になにが──
《2児ママと“首タトゥーの男”が育児放棄疑い》「こんなにタトゥーなんてなかった」キャバ嬢時代の元同僚が明かす北島エリカ容疑者の“意外な人物像”「男の影響なのかな…」
NEWSポストセブン
滋賀県草津市で開催された全国障害者スポーツ大会を訪れた秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
《“透け感ワンピース”は6万9300円》佳子さま着用のミントグリーンの1着に注目集まる 識者は「皇室にコーディネーターのような存在がいるかどうかは分かりません」と解説
NEWSポストセブン
天皇皇后両陛下主催の「茶会」に愛子さまと佳子さまも出席された(2025年11月4日、時事通信フォト)
《同系色で再び“仲良し”コーデ》愛子さまはピンクで優しい印象に 佳子さまはコーラルオレンジで華やかさを演出 
NEWSポストセブン
クマ捕獲用の箱わなを扱う自衛隊員の様子(陸上自衛隊秋田駐屯地提供)
クマ対策で出動も「発砲できない」自衛隊 法的制約のほか「訓練していない」「装備がない」という実情 遭遇したら「クマ撃退スプレーか伏せてかわすくらい」
週刊ポスト
真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン
文京区湯島のマッサージ店で12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕された(左・HPより)
《本物の“カサイ”学ばせます》12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕、湯島・違法マッサージ店の“実態”「(客は)40、50代くらいが多かった」「床にマットレス直置き」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《いきなりテキーラ》サンタコスにバニーガール…イケイケ“港区女子”Nikiが直近で明かしていた恋愛観「成果が伴っている人がいい」【ドジャース・山本由伸と交際継続か】
NEWSポストセブン
Mrs. GREEN APPLEのギター・若井滉斗とNiziUのNINAが熱愛関係であることが報じられた(Xより/時事通信フォト)
《ミセス事務所がグラドルとの二股を否定》NiziU・NINAがミセス・若井の高級マンションへ“足取り軽く”消えた夜の一部始終、各社取材班が集結した裏に「関係者らのNINAへの心配」
NEWSポストセブン
山本由伸(右)の隣を歩く"新恋人”のNiki(TikTokより)
《チラ映り》ドジャース・山本由伸は“大親友”の元カレ…Niki「実直な男性に惹かれるように」直近で起きていた恋愛観の変化【交際継続か】
NEWSポストセブン