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東京五輪聖火台点灯の坂井義則氏 聖火が消えること心配せず

 2020年、東京で五輪が開催されることが決定した。前回、東京で五輪が開催されたのは、49年前のこと。10月10日に行われた開会式で、聖火台に火を付けた人物を、作家の山藤章一郎氏が追いかけた。

 * * *
「あそこが昭和天皇の坐ったロイヤルボックス。あっちの1番ゲートの正面に立つのがオダポール」

──オダポール? 尋ねると、あの日聖火台に火をつけた坂井義則氏が教えてくれた。日本初の金メダリスト・織田幹雄をたたえる高さ15m21cmのポールである。この長さを〈三段跳び〉で記録した。

 聖火台の真下にある青山門から、急こう配の客席の階段を坂井氏と昇った。68歳の坂井氏、荒い息をつく。午後1時。秋の陽が照りつけている。グラウンドに人はいない。風の音だけがかすかに聞こえる。赤褐色のレーン、緑の芝生そして白い織田ポールが立つ。振り返った。副都心の高層ビルの上に雲が湧きたっている。

「グラウンドを半周してから、この下の特設階段を昇ってきて火をつけました。火が消えるとか、階段踏みはずすとか、そんなことは思いもしませんでした。7万5000人が見守るグラウンドの入口で、足踏みして待ったんです。

 前にいる鼓笛隊の音がやんだら、誰のキューもなく、さあ入場しようって。空が真っ青でした。高校のとき、朝走って昼走って、夜寝ての生活を送ってオリンピックをめざしたんです。でも候補選手の本選に落ちまして」

 代わりに〈最終の聖火ランナー〉にと、日本陸連から望外の歓びがもたらされた。坂井氏は昭和20年8月6日、原爆が落とされた日に広島で誕生した。〈平和の祭典〉がテーマの東京大会に最適の人材だった。大学卒業後、フジテレビに入社。スポーツと報道を担当し、7年前定年退職した。

「国立競技場が新しくなっても、織田ポールとこの聖火台はレガシー。ずっと遺したいですね」

※週刊ポスト2013年10月4日号

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