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FA移籍の「人的補償」の歴史 成功例は福地、赤松、工藤など

 プロ野球のフリーエージェント(FA)戦線が活発化してきた。今年は涌井秀章、片岡治大(ともに西武)、大竹寛(広島)、小笠原道大(巨人)など8選手が手を挙げ、争奪戦が始まっている。もちろん、宣言した当事者にとっては、自身の野球人生を左右する一大イベントだが、それとは別に各チームの“一軍半の選手”も、FA移籍を注視しているはずだ。

 というのも、年俸ランクがAもしくはBの選手(※注)がFA移籍する場合、選手が流出する球団は人的補償を要求できるからだ。選手は28人のプロテクトに入らなければ、人的補償として他球団へ移籍せざるを得なくなる。

【※注】各球団の外国人選手を除く年俸ランクで、1~3位はAランク、4~10位はBランク、11位以下はCランクとなる。

 1993年オフにFA制度がスタートした日本球界では、これまで人的補償で15人が移籍している。1990年代は、川邉忠義が巨人から日本ハムへ移ったのみだったが、2000年代に入り、その数は急増した。スポーツライターはこう分析する。

「投手でいえば、昔は先発完投を求められましたが、今は先発、中継ぎ、抑えと完全な分業制になりました。1990年代もその傾向はありましたが、2000年代に入り、顕著になった。

 野手も、昔は9人野球が理想とされましたが、今は9人で試合が終わることは滅多に見られない。メジャーに倣い、主力が休養日を取るチームもあるほど。要するに、全体的に選手層が厚くなったのです。レギュラークラスの実力を持つ選手が増え、必然的に良い選手がプロテクトに入りきらなくなったのでしょう」

 過去を振り返ると、2008年は人的補償の当たり年だった。西武へFAした石井一久の代わりに、ヤクルトへ入団した福地寿樹は打率3割2分で打撃ベストテン6位に入り、盗塁王を獲得。2012年に引退するまで、毎年2ケタ盗塁を続け、ヤクルトに欠かせない選手となった。今年からはコーチに就任。福地にとって、人的補償が野球人生の道を拓いたといえるだろう。

 阪神へFAした新井貴浩の代わりに、広島へ入団した赤松真人は前年わずか28試合だった出場数が125試合まで増加。新天地で活路を見出し、翌年は初の規定打席に到達。2010年には、フェンスによじ登って、ホームラン性の当たりをキャッチするなど、すっかり広島の看板選手となった。

 また、中日へFAした和田一浩の代わりに、西武へ入団した岡本真也は47試合にリリーフ登板し、日本一に貢献。中継ぎとして、貴重な役割を担った。

 この年は、FAした選手も活躍した上に、人的補償の選手も飛躍を遂げ、両球団にとって良い形となった。人的補償という言葉にはマイナスイメージがつきまとうが、選手にとっては大きなチャンスだともいえる。

 なかには、FA選手よりも人的補償選手が好成績を残す場合もある。2006年、巨人は中日から野口茂樹を獲得。かつてのMVP投手は期待を寄せられたものの、わずか1試合の登板に終わる。野口は2008年限りで巨人を戦力外通告に。代わりに、中日へ移った小田幸平は、谷繁に次ぐ貴重な2番手捕手として、未だに現役生活を続けている。

 2007年、巨人は横浜から門倉健を獲得。2年連続2ケタ勝利の門倉は開幕2戦目に先発するなどローテーションの一角として期待されたが、なかなか勝てず、1勝5敗でシーズンを終えた。いっぽうで、門倉の代わりに横浜へ移った工藤公康は先発として7勝を挙げ、チームの4位浮上に貢献した。

 入団時は三顧の礼をもって迎えられるFA選手たちだが、1年後は人的補償で移籍した選手のほうが活躍している可能性もある。現在のFA交渉でホクホク顔の選手たちが、来年も笑っていられるとは限らないところに、プロ野球の面白さがある。

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