この時期、蟹江は「にっかつロマンポルノ」にも主役級の役柄で出演している。『犯す!』の「強姦魔」や『赤線玉の井 ぬけられます』のヒモ役などで強烈な印象を残している。
「テレビや映画をずっとやっていましたが、メインの役ってほとんどないわけですよ。ロマンポルノは割といい役が来ました。役者って、時にはそういう役をやらないとつまらないんです。
『犯す!』の長谷部安春監督はシャープな方でした。強姦魔を一人の孤独な男として捉えていた。演技は基本的には監督の指示です。あの時は、犯している時でも表情を出さないように言われましたね。僕がやるのは、そのシチュエーションの中に入って、衝動をどう表現するか、ということです。男の中に何となく存在するそういう願望を少しずつ膨らましていきました。
『赤線~』の神代辰巳監督は勝さんと同じで意表を突く演出をしました。ベッドシーンがあって、台本には『乱暴に服を脱がす』としか書かれていない。どうやって脱がそうか悩んでいたら、神代監督は『足を伸ばして、足の指でボタンを外せ』と言うんです。こんなこと考えるんだ、とショックと同時に勉強になりました」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が発売中。
※週刊ポスト2014年1月24 日号