経常赤字になったら、日本が成長できないわけでもない。赤字でも成長している国は米国や豪州などいくらもある。たとえば米国が財政赤字に加えて経常赤字でも成長しているのは、なぜか。ひと言で言えば、企業がいつも新陳代謝していて元気だからだ。それで世界中から投資資金が集まっている。
それでも「海外資金に頼るのは危険じゃないか」という心配性の読者もいるだろう。そういう方には「経済というのは、収支=帳尻合わせだけで成り立っているわけではない」と答えよう。
貿易も投資も財政も、つい最後の「収支」だけで考えがちだが、それは結果だ。おカネが動くときには金利も動く。為替も動く。たとえば国債が売れなくなれば、金利は上がる。すると、それが魅力となっておカネが集まる。
為替も同じだ。世界の投資家が「日本は魅力がない」と思って円を売れば、その場限りでは円安になるが、それは輸出を刺激する。今回の貿易赤字でも輸出が減ったかといえば、実は増えているのだ。
収支だけを見ているといかにも大変そうだが、それで日本経済が大崩壊するかといえば、おカネの市場メカニズムが働くので、それなりに落ち着くべきところに落ち着く。
大崩壊するのは、おカネのメカニズムに粉飾決算があった場合である。たとえば、かつてのサブプライムローン問題とか中国のシャドーバンキングだ。日本はそこまでデタラメではない。貿易赤字で大騒ぎして喜ぶのは霞が関だけだ。トンデモ経済記事にだまされてはいけない。
(文中敬称略)
文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)。
※週刊ポスト2014年5月9・16日号