スポーツ

三原監督 打席に向かう代打男のポケットに1万円札忍ばせた

 プロ野球で優勝するようなチームには必ず“仕事人”と呼ばれるいぶし銀の選手が存在するが、そんな先週を上手に起用したのが、巨人や西鉄、大洋などで采配を振るった三原脩監督だ。スポーツライターの永谷脩氏が、“三原マジック”の申し子だった代打男・麻生実男の思い出を語る。

 * * *
 大洋(現DaNA)の合宿所が、巨人の多摩川グラウンドを挟んで東横水郷近くにあった頃。本拠地・川崎球場からその合宿所への帰り道には、吉原(東京)に次ぐ歓楽街「堀之内」があった。

 大洋が日本一を達成した1960年、当時の三原脩監督は、選手を勝負所で打席に送る時、「今夜は堀之内で遊んでこいや。最初に来た“娘”にゴツンやで」と言って、ポケットに1万円札を忍ばせたという。「娘」は「ボール」に掛けている。つまり“初球を狙え”ということだ。「初球にストライクが来る確率が一番高い」という、三原の持論から来る指示だった。

 これを教えてくれたのは、当時の主力投手だった鈴木隆である。その時連れて行ってもらったオーシャンバーのテーブルには、飲みかけのハイボールが置いてあり、スツールの横では、「元祖・代打の神様」として大洋の優勝に貢献した、麻生実男が酔いつぶれて眠っていた。

「見とけよ、アイツが女の子を口説くときには、必ずブサイクな娘から最初に口説くぞ」

 鈴木は笑ってそう言うので、「(フラれないための)安全策ですか」と聞き返すと、「というよりは“確率”やな。相手も警戒しているから、初球は“打てる”ストライクを狙う。悲しい打者の性だよ」

 こう語っていたのを思い出す。

 麻生は打力こそ優れていたが、守備に難があった。三原は大洋監督に就任したキャンプ初日、プロ2年目だった麻生の守りを見て、「お前の守りじゃプロでは銭が取れん」とたった一言告げて、ベンチに向かう。

 しかしその時、ケージに立てかけていた2本のバットに目が留まった。タイ・カッブ式の“すりこぎバット”。マネージャーに「あのバットを持っているのは誰か」と聞くと、麻生の物だった。

「ホームランバッターではない麻生が、すりこぎバットのグリップを加工してミートしやすくしている。それを見た時、これは使えると思った。そういえば、打撃練習でも第1打席に一番いい当たりをしていた」(三原)

 その後、三原は麻生を代打専門として起用、「代打男・麻生」が誕生したのである。

 三原監督で初優勝した60年は、巨人戦での代打率が.577を記録。シーズン打率が.254に対して、代打率が.308であることを考えれば、いかに一打に賭ける集中力が高かったかを偲ばせる。大洋が2度目に優勝を争っていた62年には、麻生は代打専門として初めて、オールスター戦に監督推薦で選ばれ、押しも押されもせぬ「代打の神様」となったのだった。

※週刊ポスト2014年5月2日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
佳子さまの「多幸感メイク」驚きの声(2025年11月9日、写真/JMPA)
《最旬の「多幸感メイク」に驚きの声》佳子さま、“ふわふわ清楚ワンピース”の装いでメイクの印象を一変させていた 美容関係者は「この“すっぴん風”はまさに今季のトレンド」と称賛
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン