スポーツ

横浜高校で時代築いた野球部名物コーチの思い出を記者が述懐

 横浜高校野球部コーチ、小倉清一郎氏(69歳)の今夏限りの引退が報じられた。名物指導者の引退は、高校野球界だけでなくプロ野球界の今後も変えるかもしれない。フリー・ライターの神田憲行氏が書く。

 * * *
 私が小倉さんと初めて出会ったのは、1998年、「横浜vs.PL学園」(朝日新聞出版文庫)というノンフィクションを書くためだった。あの松坂大輔投手とPL学園の延長17回の戦いである。

 本の中で小倉さんがPLの投手の癖、打者の打球方向などを分析した「小倉メモ」を紹介したところ、大きな反響があった。見た目はお腹がでっぷりと出て「べらんめえ」調の喋りだからアバウトな人かと思いきや、相手選手の長所短所を瞬時に見抜く鋭さがあった。小倉さんが作成した「投手の一塁牽制」に関する横浜高校の練習メニューをみせてもらったら、A4紙に3ページにわたって図入りで詳細に書かれていた。神奈川の細かく緻密な野球をリードした人だと思う。

 出たり入ったりはあったが、1994年から同校野球部部長に就任し、横浜高校時代の同級生・渡辺元智監督と二人三脚で全国優勝5回に導いた。プロに送った選手も、松坂を始め、成瀬善久(ロッテ)、涌井秀章(同)、筒香嘉智(横浜DeNA)ら、枚挙にいとまが無い。主に精神面は渡辺監督、技術面は小倉さんが担っていた。松坂はかつて私に、

「高校時代にピッチング練習してて、渡辺先生が後ろから見ていたらすごく緊張した。でも小倉さんだと何にも怖くなくて、リラックスしてました」

 甲子園で私が挨拶に伺うと、必ず

「おう、あんた、まだ(記者)やってたのか」
「勝手にやめさせないでくださいよ」

 というやりとりをしていた。私のことを覚えているのかいないのか、どうも狸でよくわからない。でもたまに囲みの取材の中で思い切って自分の野球観を交えた質問をすると、私の顔を指して、

「その通り!」

 といってくれて、ちょっと心が躍った。逆に1度、いじったこともある。

 2006年の夏、その年の選抜で優勝した横浜は初戦で中田翔がいる大阪桐蔭と対戦した。中田はその前年、1年生で華々しくデビューしていた。試合前に小倉さんにその対策を訊ねると、

「中田翔なんてまだまだ、だよ」
「ピンチでは敬遠とか」
「するわけねぇだろ」

 ところが四球を2つ与え、特大のホームランも打たれて6対11で敗れた。試合後にまた小倉さんのもとに行った。

「敬遠しましたよね」
「してない!」
「いやだって、ストレートで歩かせたじゃないですか」
「あれは、たまたま、外れただけ」

 お茶目なところがあった。

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン