スポーツ

金田正一 「ワシが選手食堂でビール飲むことを解禁させた」

 400勝投手“カネやん”こと金田正一氏(80)は、1965年に始まる巨人V9のきっかけをつくった選手だ。移籍直後に初めて参加した巨人のキャンプで、金田氏は長嶋茂雄氏の体があまりに硬くて驚かされた。専属トレーナーを雇い、ミネラルウォーターを飲むなどコンディショニングにいち早く取り組んでいた金田氏に影響され、体を作り直した長嶋氏は完全に復活した。劇的に巨人の意識を変え、V9の礎を作っていった当時の思い出を金田氏が語る。

 * * *
 川上(哲治)さんはワシを招き入れることで、長嶋や王(貞治)をはじめとする選手の意識改革をしたかったんじゃないかな。とにかく、ワシのいうことには協力してくれた。

 たとえば食事だ。当時は食堂でビールを飲むことも禁止だった。しかし適量の酒は食欲を増進させる。そんなものを社会人にもなって規制される必要があるかと、すぐ撤廃してもらった。

 それにキャンプの宿舎の食事が酷くてな。練習から帰って夕食に出された料理を見てワシは呆れたよ。何時間も前に作った、冷めたトンカツが並んでいるんだ。中高生の部活の合宿で出るような料理だぞ。それを長嶋や王が食べている。こんな食事でプロがどうやって体を作るのかと思ったよ。だから、

「ワシは自由にさせてもらいます。ワシも商売ですから、食べるものまで規制されては力が発揮できません」

 と川上さんにいうと、これも一発ОKしてくれた。内心は「この新入りが」と思っていただろうけどね。

 ワシは国鉄(スワローズ)時代から自分で食料を買い付けてメシを作っていた。ミネラルウォーターをいち早く飲むなど、食事には本当に留意していたからな。これは「旅先では水に気をつけろ。腹を空かせるな」という母の教えに基づくものだ。

 これを巨人でも実践した。いわゆる「金田鍋」だ。すぐに末次利光、土井正三といった選手がワシの部屋に集まってきた。もちろんONも来たよ。ワシを慕ってきた連中はみんな、成績を残して現役生活を長く過ごした連中ばかりだ。一般的な選手が払うキャンプ中の費用が1万円といわれていた時代に、ワシはいろんな経費を含めて28万円も使っていたんだからな。

 それから今では当たり前になった、キャンプ中の朝の散歩を始めたのもワシだ。毎朝早起きをして、散歩の仕上げに市場で夕食の買い出しをするのを日課にしていたが、巨人の連中は王や長嶋ですら、いつまで寝ているんだと思うほど朝が遅かったからね。これも「金田について行こう」という川上さんの鶴の一声で全員がついてくるようになった。これが体を作る意識の改善に繋がり、V9に繋がったともいえるかな。

※週刊ポスト2014年8月8日号

関連記事

トピックス

サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(時事通信フォト)
《総スカン》違法薬物疑惑で新浪剛史サントリー元会長が辞任 これまでの言動に容赦ない声「45歳定年制とか、労働者を苦しめる発言ばかり」「生活のあらゆるとこにでしゃばりまくっていた」
NEWSポストセブン
「第42回全国高校生の手話によるスピーチコンテスト」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
《ヘビロテする赤ワンピ》佳子さまファッションに「国産メーカーの売り上げに貢献しています」専門家が指摘
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《エプスタイン事件の“悪魔の館”内部写真が公開》「官能的な芸術品が壁にびっしり」「一室が歯科医院に改造されていた」10代少女らが被害に遭った異様な被害現場
NEWSポストセブン
香港の魔窟・九龍城砦のリアルな実態とは…?
《香港の魔窟・九龍城砦に住んだ日本人》アヘン密売、老いた売春婦、違法賭博…無法地帯の“ヤバい実態”とは「でも医療は充実、“ブラックジャック”がいっぱいいた」
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、インスタに投稿されたプライベート感の強い海水浴写真に注目集まる “いいね”は52万件以上 日赤での勤務をおろそかにすることなく公務に邁進
女性セブン
岐路に立たされている田久保眞紀・伊東市長(共同通信)
“田久保派”の元静岡県知事選候補者が証言する “あわや学歴詐称エピソード”「私も〈大卒〉と勝手に書かれた。それくらいアバウト」《伊東市長・学歴詐称疑惑》
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
「少女を島に引き入れ売春斡旋した」悪名高い“ロリータ・エクスプレス”にトランプ大統領は乗ったのか《エプスタイン事件の被害者らが「独自の顧客リスト」作成を宣言》
NEWSポストセブン
東京地裁
“史上最悪の少年犯罪”「女子高生コンクリート詰め事件」逮捕されたカズキ(仮名)が語った信じがたい凌辱行為の全容「女性は恐怖のあまり、殴られるままだった」
NEWSポストセブン
「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路とは…(写真/イメージマート)
【1500万円が戻ってこない…】「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路「経歴自慢をする人々に囲まれ、次第に疲弊して…」
NEWSポストセブン
橋幸夫さんが亡くなった(時事通信フォト)
《「御三家」橋幸夫さん逝去》最後まで愛した荒川区東尾久…体調不良に悩まされながらも参加続けていた“故郷のお祭り”
NEWSポストセブン
麻原が「空中浮揚」したとする写真(公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」より)
《ホーリーネームは「ヤソーダラー」》オウム真理教・麻原彰晃の妻、「アレフから送金された資金を管理」と公安が認定 アレフの拠点には「麻原の写真」や教材が多数保管
NEWSポストセブン
”辞めるのやめた”宣言の裏にはある女性支援者の存在があった(共同通信)
「(市議会解散)あれは彼女のシナリオどおりです」伊東市“田久保市長派”の女性実業家が明かす田久保市長の“思惑”「市長に『いま辞めないで』と言ったのは私」
NEWSポストセブン