「かえって清々しいけどね(笑い)。当時は株価や土地が下がるとは、日銀総裁だって思わなかったんだから。例えば大阪の焼鳥屋から身を興した『五えんや』の中岡信栄なんか、上京するとオークラの最上階を借り切って、僕が行っても代議士が行ってもポンと100万円、くれるわけ。所詮はあぶく銭だから(笑い)」

 だが、氏はあえて書く。〈バブルの紳士たちは半面、精力的に仕事をこなす人間でもあった〉〈残ったのは真面目が背広を着ているような連中ばかりで、バブルの時代に何もできなかったヤツ、何もしなかったヤツだ〉

「もちろん清濁のバランスは大事よ。でも少なくとも末野謙一や高橋には世の中を活性化する力があったし、彼らを単なる悪者だとはワシにはやっぱり思えんのよ。僕が弁護士を開業した時、確かに大企業からも依頼はあった。でも彼らは世間体や体裁ばかりを気にするだけの小役人でつまらない。一方で貧しさや差別から這い上がってきた連中の話は全部に生身の経験から出た魂が宿っていて、どうせ仕事するならそういう連中とする方が男冥利に尽きる」

 中でも一目会いたいのが、イトマン事件と石橋産業事件で実刑を受け、今年9月、韓国で刑期を終えた許永中氏だ。実は許氏が保釈中に失踪した際、田中氏は彼と密会していた事実を本書で初めて明かし、手続的にも不当な検察の捜査の狙いは自分の逮捕にあったという。

「僕は今もあの判決に不服だし、永中を巻き込んだ検察のやり口はもっと納得できないもの。だから無罪になるには共犯の線を崩せばいいとわかっていながら、意地でもそうしなかった。つまりそれは永中の罪状を認めるに等しく、彼を裏切るくらいなら刑務所に入る方がよっぽどマシだった」

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