国際情報

邦人人質事件の自己責任論と政権批判 テロリスト利するだけ

 イスラム過激派組織「イスラム国」による邦人人質事件が日本中を震撼させた。つい先日はパリでの新聞社襲撃事件もあった。グローバル化が進むテロ組織が日本人を狙う可能性は今後も高まりこそすれ、減じることはなさそうだ。

 グローバル・テロリズムにどう対応すべきなのか。単に「巻き込まれたくない」と言っているだけではすまない。否応なく巻き込まれたときに、国や社会がどうするかが問われている。

 事件を受けてネット上で拡散したのは「自己責任論」だった。「彼らは危険を承知で行ったのだから、こういう目に遭っても仕方がない」という意見だ。私はこれに、まったく同意しない。

 不注意な部分があったとしても、国には国民の生命を守る義務がある。こんな当たり前の原理原則を踏まえぬ議論が横行すること自体、日本の未熟さを示している。

 驚いたのは日本共産党だ。池内沙織衆院議員は「『ゴンゴドウダン』などと、壊れたテープレコーダーの様に繰り返し、国の内外で命を軽んじ続ける…安倍政権の存続こそ言語道断。悲しく、やりきれない夜」などとツイッターで政権を批判した。

 すぐ削除され、志位和夫委員長も不適切と認めたが、まるで安倍政権のせいで犠牲者が出たかのような書きぶりだ。かと思うと、山本太郎参院議員は「2億ドルの支援を中止し、人質を救出してください」とツイートした。そういう意見こそテロリストを利する結果になる、と2人は思い至らないのだろうか。

 ネット上の自己責任論と野党議員らの政権批判は無関係のようでいて、実は共通点がある。ともに事態の日本側の側面だけを眺めているのだ。危険な場所に行った日本人と安倍政権を見て、肝心のテロリストを見ていない。

 こういう論者には、そもそも相手が見えていないのだから、テロの現状認識はできない。したがって対処方針にも考えが及ばない。言い換えれば、それほど日本は外からの脅威に対して鈍感でいられたのだ。お寒い状況は、いつまで経っても内向きで視野狭窄(きょうさく)の日本自身の側にある。

 こんな段階にとどまっていたら日本は一層、テロリストの標的になってしまうだろう。「日本人は攻撃すればするほど混乱する。いまが脅かす絶好のチャンスだ」と敵が考えるのは当然ではないか。

 だから、まずは「日本はみんながテロリストをしっかり理解し、体制を整えているぞ」という姿勢を内外に示す。それを日本と日本人を守る第1歩にしなければならない。いまがそのときだ。

■文/長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年 新聞は生き残れるか』(講談社)

※週刊ポスト2015年2月13日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

WSで遠征観戦を“解禁”した真美子さん
《真美子さんが“遠出解禁”で大ブーイングのトロントへ》大谷翔平が球場で大切にする「リラックスできるルーティン」…アウェーでも愛娘を託せる“絶対的味方”の存在
NEWSポストセブン
ベラルーシ出身で20代のフリーモデル 、ベラ・クラフツォワさんが詐欺グループに拉致され殺害される事件が起きた(Instagramより)
「モデル契約と騙され、臓器を切り取られ…」「遺体に巨額の身代金を要求」タイ渡航のベラルーシ20代女性殺害、偽オファーで巨大詐欺グループの“奴隷”に
NEWSポストセブン
高校時代には映画誌のを毎月愛読していたという菊川怜
【15年ぶりに映画主演の菊川怜】三児の子育てと芸能活動の両立に「大人になると弱音を吐く場所がないですよね」と心境吐露 菊川流「自分を励ます方法」明かす
週刊ポスト
ツキノワグマは「人間を恐がる」と言われてきたが……(写真提供/イメージマート)
《全国で被害多発》”臆病だった”ツキノワグマが変わった 出没する地域の住民「こっちを食いたそうにみてたな、獲物って目で見んだ」
NEWSポストセブン
2020年に引退した元プロレスラーの中西学さん
《病気とかじゃないですよ》現役当時から体重45キロ減、中西学さんが明かした激ヤセの理由「今も痺れるときはあります」頚椎損傷の大ケガから14年の後悔
NEWSポストセブン
政界の”オシャレ番長”・麻生太郎氏(時事通信フォト)
「曲がった口角に合わせてネクタイもずらす」政界のおしゃれ番長・麻生太郎のファッションに隠された“知られざる工夫” 《米紙では“ギャングスタイル”とも》
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
《ビザ取り消し騒動も》イギリス出身の金髪美女インフルエンサー(26)が次に狙うオーストラリアでの“最もクレイジーな乱倫パーティー”
NEWSポストセブン
東京都慰霊堂を初めて訪問された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年10月23日、撮影/JMPA)
《母娘の追悼ファッション》皇后雅子さまは“縦ライン”を意識したコーデ、愛子さまは丸みのあるアイテムでフェミニンに
NEWSポストセブン
将棋界で「中年の星」と呼ばれた棋士・青野照市九段
「その日一日負けが込んでも、最後の一局は必ず勝て」将棋の世界で50年生きた“中年の星”青野照市九段が語る「負け続けない人の思考法」
NEWSポストセブン
2023年に結婚を発表したきゃりーぱみゅぱみゅと葉山奨之
「傍聴席にピンク髪に“だる着”姿で現れて…」きゃりーぱみゅぱみゅ(32)が法廷で見せていた“ファッションモンスター”としての気遣い
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKI(右/インスタグラムより)
《趣里が待つ自宅に帰れない…》三山凌輝が「ネトフリ」出演で超大物らと長期ロケ「なぜこんなにいい役を?」の声も温かい眼差しで見守る水谷豊
NEWSポストセブン
松田聖子のモノマネ第一人者・Seiko
《ステージ4の大腸がんで余命3か月宣告》松田聖子のものまねタレント・Seikoが明かした“がん治療の苦しみ”と“生きる希望” 感激した本家からの「言葉」
NEWSポストセブン