前任の胡錦濤が副主席時代の1998年に訪日し天皇陛下と会見した。中国は前例を何よりも重要視しており、習が後継者であることをアピールするために胡と同じ日程をこなさなければならなかった。
中国の最高指導者は有権者による選挙ではなく、党内の実力者らの話し合いにより密室で決まる。毛沢東やトウ小平ら建国に関わった世代にはカリスマ性があったが、その後の指導者はたまたま抜擢されたサラリーマンでしかない。
後継者に選ばれたら、まずしなければならないのは地位の正当性をアピールすることである。ライバルたちを圧倒する方法としてよく使われる手法は、外遊でより多くの外国指導者と会うことだ。
中国メディアを通じて詳しい様子を国内に伝え、国民に対し「私こそ後継者だ」を印象づける。そして、世界中に数ある要人の中で、最も権威があると考えられているのが日本の天皇である。
中国版ウィキペディアにあたる百度百科で「日本天皇」を調べると、「日本国家の象徴。世界で唯一(皇帝・Emperor)との称号を持つ君主」とある。そのうえで「日本の天皇制は世界歴史の中で最も長く続いた君主制度である」とも説明している。
世界で最も由緒正しい天皇との会談が実現すれば、習にとって最高の箔付けになるが、逆に実現できなければ、後継者としての地位が揺らぎ、李克強派に反撃のきっかけを与えるかもしれないとの事情を抱えていた。
結局、天皇陛下が知らぬうちに、中国最高指導者レースで習に力添えをしたわけである。
※SAPIO2015年6月号