【最後にお父さんが出てくると失敗する】
――佐藤家の教育は、母親である亮子さんがすべての責任を持っていたんですね。お父さんが果たされた役割は何でしたか。
佐藤:主人は本来、子供たちの勉強を見たり、世話を焼きたいタイプなんですが、それだけに、父母で子供の勉強を中途半端にシェアすると、責任がどっちつかずになると思ったんです。ですから、子供の勉強の責任はすべて私が持つことにしました。塾の送り迎えなどは主人も手伝ってくれましたが、私が子供の黒子だとしたら、主人は黒子の黒子。灘の通知表や、模試の順位などは、主人は一切、見たことがありません。
一方で、主人も、子供たちに自分の希望を押し付けるようなことはしませんでした。主人は弁護士なのですが、子供たちが理IIIを受けるときも「そうか、法学部じゃないのか」と、ぽつりと漏らしただけ。塾の先生は「最後にお父さんが出てくると失敗する」と仰っていましたね。
――父親が教育に参加している家庭も多いと思いますが、なぜ、最後にお父さんが出てくると失敗するのでしょうか。
佐藤:毎日とか、定期的に出てきていればいいんです。仕事などでそれができないのに、最後にだけ出てきて「こんな大学を受けるのか」とか、「なんであの大学じゃないんだ」とかいうから、揉めるんです。受験って、3年なら3年で完成させる一つのプロジェクトなんですね。仕事でも、現場を把握していない上司が、会議にだけ出てきてやいやい言ったら、そのプロジェクトは失敗しますよね。それと同じです。私は長年、子供たちと二人三脚でやってきたから、彼らの勉強に責任が持てるのです。
――最近は、仕事や趣味、自分磨きに頑張る母親も増えています。佐藤さんはそうしたお母さんをどう思われますか。
佐藤:私の場合は、専業主婦ではありましたが4人の教育にコミットしてきましたので、正直、自分の時間はほとんどありませんでした。そもそも、自分の趣味を楽しみたいという気持ちもなかったんですけどね。人それぞれ考え方は違いますし、子供が何人いるか、働いているかなど、環境によっても変わってくるとは思いますが、子育てや受験って、そんなに甘いものではないと私は思っています。もし子供に学力を求めるなら、親が何かを諦めてでも子供の教育に賭けると、腹をくくることも大事ではないでしょうか。
私にとって全身全霊をかけて子育てをするのは、産んだ責任がある以上、自然なことでしたし、やりがいのあることでした。高校生の娘がまだいますので、現在も楽しんでいます。
■プロフィール/佐藤亮子(さとう・りょうこ)
奈良県在住。主婦。津田塾大学卒業後、大分県内の私立高校で英語教師として2年間教壇に立つ。その後結婚し、長男、次男、三男、長女の順で3男1女を出産。長男・次男・三男の3兄弟が全員、名門私立の灘中・高等学校に進学。3人それぞれが体育系のクラブに所属し青春を謳歌、ガリ勉とは無縁の学生生活を送る。高校では塾に通いつつも、高3の夏からようやく本格的な受験勉強を始めた。その後、3人とも日本最難関として有名な東京大学理科III類に合格。秀才を育てる子育てノウハウや家庭の教育方針などが注目を集めている。今、最も注目されるお母さんの一人。