芸能

天皇の料理番・谷部金治郎氏 陛下と直接お話ししたのは一回

 佐藤健(26才)が主演を努める、人気ドラマ『天皇の料理番』(TBS系)。知られざる宮中の食卓。料理を担当するだけでなく、日々の献立や饗応・式典などのメニューも考える外交上重要な役割を担う天皇の料理番だが、その実態はあまり知られていない。

 昭和天皇の料理番として仕えた和食料理人・谷部金次郎氏(68才)とフレンチシェフの工藤極氏(63才)がその実情を語り合った。谷部氏と工藤氏は、ドラマのモデルである秋山徳蔵氏の下で「天皇の料理番」をしていた。

〈天皇の料理番は宮内庁大膳課に勤める国家公務員。谷部氏は1964年から昭和天皇崩御の1989年まで和食担当を、工藤氏は1974年から1979年まで洋食を担当した。

 当時大膳課厨房係は大きく5つに分かれ、第一係は和食、第二係は洋食、第三係は和菓子、第四係はパンと洋菓子、第五係が東宮係。宮中晩餐会などが催される、宮殿の地下にある厨房が調理場となっていた。〉

工藤:厨房係は厨房で食材を下ごしらえして、それを岡持に入れて車で吹上御所へ持って行くんです。そして最後の仕上げと盛り付けを御所の中の厨房でして、食堂のすぐ近くの供進所(配膳室)でセットする。ぼくたちの仕事はそこまでで、料理を両陛下の食堂に運ぶのは女官の役割です。

谷部:陛下から直接、献立について感想をお聞かせいただくことは一度もありませんので、お食事中の会話や雰囲気から感じ取るしかないんです。そこで、お魚なら鰯、鰺、鯖などの青魚や、鰻がお好きだなとわかってくるのです。時折、女官が厨房へやって来て「おいしかった」と伝えてくれることもあって、陛下のお心遣いだと思いますが、本当に嬉しかったですね。

工藤:そうですね、自分が担当したときに、(女官から)「このメニューはどなたが作ったのですか?」と聞かれると心の中で“やった!”と叫んでいましたね。

谷部:日常の献立を考えるのは主厨長の仕事です。2週間分ごとに提案し、医師の了承を得てから決定されます。1日約1800kcalで化学調味料は一切使用しないことなどが決められていました。

 和食の場合は一汁三菜が基本で、野菜の煮物や青魚が中心で腹八分目の量とされていました。具体的には南瓜の煮付け、秋刀魚の塩焼き、あさりの味噌汁に漬け物、麦入りご飯という献立です。みなさんが思っているより、ごく一般的な家庭料理なんですよ。

工藤:献立を見て、最初はその質素さに驚きました。ぼくが大膳で学んだのは食材を余すことなく使い切るということ。鶏の骨までスープのだしを取るのに使う。野菜の皮も葉も使い切ります。

谷部:「一物全体食」といって、食材を全部使うことで栄養バランスが偏らないようにするというのが、大膳課の調理の基本。それに食材費は税金ですから、決められた予算の中でやりくりします。その感覚は家庭の主婦と同じですね。

工藤:肉や野菜は皇室専用の御料牧場のものですが、魚は築地の業者から取り寄せていました。

谷部:陛下は鰻がお好きでした。生きた鰻を一度に5本注文して、それを蒲焼きにしました。当時私は鰻を捌いた経験がなく、余分に1本を自腹で買って練習をしたものです。天然もので1本500円。大卒初任給が3万~4万円の時代でしたから、痛い出費でしたね。

工藤:陛下は麺類も好まれたんですよね?

谷部:そうそう、晦日(月末日)は決まって蕎麦でした。ある時私がお蕎麦を打ってお出ししたんです。そうしたら、女官が飛んできて「今日のお蕎麦はどこのお蕎麦ですか」というお尋ねがありました。「大膳の蕎麦です」とお答えしたのを今でも鮮明に覚えています。

 ただ、陛下と直接お話しする機会は1度だけしかありませんでした。24才の頃です。皇族の親睦会で屋台のてんぷらを揚げていたら、陛下から「穴子と紫蘇を」と注文された。菜箸を持つ右手の震えが止まらず、左手を添えてなんとか揚げました。畏れ多くて腰が抜けるような状態でしたね。

※女性セブン2015年6月25日号

関連記事

トピックス

上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン
ラオス語を学習される愛子さま(2025年11月10日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまご愛用の「レトロ可愛い」文房具が爆売れ》お誕生日で“やわらかピンク”ペンをお持ちに…「売り切れで買えない!」にメーカーが回答「出荷数は通常月の約10倍」
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《10代少女らが被害に遭った“悪魔の館”写真公開》トランプ政権を悩ませる「エプスタイン事件」という亡霊と“黒い手帳”
NEWSポストセブン
「性的欲求を抑えられなかった」などと供述している団体職員・林信彦容疑者(53)
《保育園で女児に性的暴行疑い》〈(園児から)電話番号付きのチョコレートをもらった〉林信彦容疑者(53)が過去にしていた”ある発言”
NEWSポストセブン
『見えない死神』を上梓した東えりかさん(撮影:野崎慧嗣)
〈あなたの夫は、余命数週間〉原発不明がんで夫を亡くした書評家・東えりかさんが直面した「原因がわからない病」との闘い
NEWSポストセブン
テレ朝本社(共同通信社)
《テレビ朝日本社から転落》規制線とブルーシートで覆われた現場…テレ朝社員は「屋上には天気予報コーナーのスタッフらがいた時間帯だった」
NEWSポストセブン
62歳の誕生日を迎えられた皇后雅子さま(2025年12月3日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまのラオスご訪問に「感謝いたします」》皇后雅子さま、62歳に ”お気に入りカラー”ライトブルーのセットアップで天皇陛下とリンクコーデ
NEWSポストセブン
竹内結子さんと中村獅童
《竹内結子さんとの愛息が20歳に…》再婚の中村獅童が家族揃ってテレビに出演、明かしていた揺れる胸中 “子どもたちにゆくゆくは説明したい”との思い
NEWSポストセブン
日本初の女性総理である高市早苗首相(AFP=時事)
《初出馬では“ミニスカ禁止”》高市早苗首相、「女を武器にしている」「体を売っても選挙に出たいか」批判を受けてもこだわった“自分流の華やかファッション”
NEWSポストセブン
「一般企業のスカウトマン」もトライアウトを受ける選手たちに熱視線
《ソニー生命、プルデンシャル生命も》プロ野球トライアウト会場に駆けつけた「一般企業のスカウトマン」 “戦力外選手”に声をかける理由
週刊ポスト
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン