後に行なわれる記者会見で実名を暴露することになる永易は、この時点では匿名で語っている。永易は選手の名を口にすることを、最後までためらっていたからだ。
「僕はほかの人に迷惑はかけたくありません。同じカマのメシを食って苦労してきた仲間に対する友情が僕にもあります。罪は僕ひとりでたくさん。そのためにがまんしてきたんですから……」
ただそのかわり、このインタビューは永易の口から衝撃の言葉を引き出した。
逃亡期間の生活費をどうしていたのか、貯金でもあったのかという大滝氏の質問を永易は否定。代わりに、ある組織から“口止め料”が払われていたことを明かしたのである。それはなんと、永易を解雇した西鉄球団だった。
「オーナーをはじめ幹部の人から“一生面倒をみるから、つらいだろうけどがまんしてくれ”といわれました。稲尾(和久)監督も“がまんしてくれ。ワシもできるだけの努力はする”となぐさめてくれました」
口止め料の真相や永易がやった八百長試合の手口が詳細に明かされる。八百長発覚直後の10月中旬、永易は当時の西鉄オーナーとその自宅で面会し、こういわれたという。
「『君には気の毒だが、チームのためを思って、君ひとりでかぶってくれ。そのかわり一生の面倒はみる。つらいだろうけどがまんしてくれ。とにかく二、三か月はかくれていてくれ』というようなことです」
そして11月上旬に100万円、同下旬にも球団本部長から50万円が渡された。
「球団本部長と会ったんですが、そのときには当時の球団社長が電話口に出て『君には悪いことをした』と、泣いてあやまってくれました」
そうして西鉄側が永易に渡した金額は合計で550万円。西鉄は当初こそ、この証言を否定していたが、その後、東京地検特捜部の取り調べを受けたオーナーが渡したことを認め、辞任に追い込まれている。
(文中一部敬称略)
※週刊ポスト2015年10月30日号