ライフ

ピンピンコロリと安楽死と天寿について、しみじみ考えてみた

 注目の医療ドラマがNHKで放映されている。原作者の独特の死生観に共感するか、反発するか。コラムニストのオバタカズユキ氏が考えた。

 * * *
 次の気になる連続ドラマがある。この稿がアップされる7日(土)の夜10時から第5回目が放送予定のNHK土曜ドラマ『破裂』だ。

 心臓若返りの“香村療法”を開発した医師・香村鷹一郎(椎名桔平)と、その療法を悪用しようとする国民生活省の官僚・佐久間和尚(滝藤賢一)の闘いを描く医療サスペンスドラマである。

 楽しめるドラマかどうかと言うと、個人的にはいまひとつだと感じている。全7回のうち第4回まで見た限りでは、主要な役者たちがそれぞれ熱演しているものの、役者同士のからみが相乗効果を生んでいない。ストイックだが根の暗い野心家である香村を椎名桔平はていねいに演じているし、“国民生活省のマキャベリ”と呼ばれるイッちゃっている官僚に滝藤賢一はぴったりだ。役者バカで身勝手な国民的名優の倉木蓮太郎を、仲代達矢はきちんと自分のものにしている。

 だが、各人の強いキャラがばらばらで、一本のドラマとして、ぐいぐい引き込まれるところまで絡み合わない。脚本がヘンだとは思わないし、演出も正攻法だと思うのだが、毎回もったいない印象なのだ。なのに、観終わると次がとても気になる。

 それは、このドラマがでかいテーマを扱い、かつ、きわめて大胆な問題提起をしているからだ。第2回目放送の終わり際に、官僚・佐久間が医師・香村に自分の目的を告げるところから、テーマが前面に出てきた。

 佐久間は、「日本に寝たきり老人が多いのはなぜか」と語り始める。それは、心臓の強い老人が多からだ」と言う。高齢者たちの理想は、いつまでもぴんぴん元気でいて、死ぬときは寝込むことなくぽっくり逝く“ぴんぴんぽっくり”に他ならない、とする。そして、衰えた心臓を若返らせ、しかし副作用でいずれ心臓破裂おこす“香村療法”は、“ぴんぴん”と“ぽっくり”を同時に実現する夢の治療法であり、その推進こそ超高齢化社会の国策にふさわしい。「先生の研究は、老人を救い、国をも救う。これは世界に先駆けた医療革命だ!」と語りまくる。

 香村は、「ふざけるな!俺の研究をそんなことに使われてたまるか!」と怒鳴りつける。が、佐久間は、ひるむことなく、こうまくし立てる。

「そう考えているなら先生もバカな医者のひとりだ! あまりに無知だ。老人医療の現状をまったく理解していない。死ぬなと言うのは、ときに死ねと言うより残酷なことだ。孤独な老人。家族に疎まれる老人。寝たきりの老人。息もできず、チューブにつながれ、床ずれに苦しみ、ときには虐待まで受ける。彼らにとって死は、文字通り救いだ。これは、声なき声だ。お年寄りが死にたいとメッセージを発すると、世間はこぞって圧殺にかかる。それは社会が悪い、みんなで改善していこう!なんてね。はははは。そんな小手先の改善なんて通用しない。もう十分だから早く楽にしてくれ、と多くの老人たちが思っている。なぜ誰もその声に耳を傾けない」

 鳥肌の立ったセリフの文字起こしをしてみた。読み返すに、やはり官僚・佐久間はかなりなことを言っている。かなりリアリティのある話を視聴者にぶつけてきている。

“ぴんぴんぽっくり”はこのドラマ内の造語だが、現実の日本社会でも“ピンピンコロリ”の人気は実に高い。90年代の後半から広がっていった言葉で、平均寿命が長くて高齢者医療費が低い長野県では、ずいぶん前から減塩などの「PPK(ピンピンコロリ)運動」を展開している。また、長野県高森町の瑠璃寺にはピンピンコロリ地蔵があり、同様のコンセプトを持ったパワースポットが全国各地に広がり、観光名所になっているところも少なくない。

 たしかに寝たきり老人が「死にたい」と訴えても、それをまともに受け止める日本人は滅多にいない。というか、日本は、安楽死を法的に容認していない。結果、佐久間の言うような惨状が現在進行形で存在している。寝たきり老人の医療費や介護費で、この国は潰れそうになっている。でも、その現実に正面から向き合う政治家を私は知らないし、国民の多くも見て見ぬふりをしている。

トピックス

事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《あなたとの旅はエキサイティングだった》戦力外の前田健太投手、元女性アナの年上妻と別居生活 すでに帰国の「惜別SNS英文」の意味深
NEWSポストセブン
1992年にデビューし、アイドルグループ「みるく」のメンバーとして活躍したそめやゆきこさん
《熱湯風呂に9回入湯》元アイドル・そめやゆきこ「初海外の現地でセクシー写真集を撮ると言われて…」両親に勘当され抱え続けた“トラウマ”の過去
NEWSポストセブン
笑顔に隠されたムキムキ女将の知られざる過去とは…
《老舗かまぼこ屋のムキムキ女将》「銭湯ではタオルで身体を隠しちゃう」一心不乱に突き進む“筋肉道”の苦悩と葛藤、1度だけ号泣した過酷減量
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:
【激太りの近況】水原一平氏が収監延期で滞在続ける「家賃2400ドル新居」での“優雅な生活”「テスラに乗り、2匹の愛犬とともに」
NEWSポストセブン
折田楓氏(本人のinstagramより)
「身内にゆるいねアンタら、大変なことになるよ!」 斎藤元彦兵庫県知事と「merchu」折田楓社長の“関係”が県議会委員会で物議《県知事らによる“企業表彰”を受賞》
NEWSポストセブン
“ボディビルダー”というもう一つの顔を持つ
《かまぼこ屋の若女将がエプロン脱いだらムキムキ》体重24キロ増減、“筋肉美”を求めて1年でボディビル大会入賞「きっかけは夫の一声でした」
NEWSポストセブン
チームを引っ張るドミニカ人留学生のエミールとユニオール(筆者撮影、以下同)
春の栃木大会「幸福の科学学園」がベスト8入り 元中日監督・森繁和氏の計らいで来日したドミニカ出身部員は「もともとクリスチャンだが幸福の科学のことも学んでいる」と語る
NEWSポストセブン
横山剣(右)と岩崎宏美の「昭和歌謡イイネ!」対談
【横山剣「昭和歌謡イイネ!」対談】岩崎宏美が語る『スター誕生!』秘話 毎週500人が参加したオーディション、トレードマークの「おかっぱ」を生んだディレクターの“暴言”
週刊ポスト
”乱闘騒ぎ”に巻き込まれたアイドルグループ「≠ME(ノットイコールミー)」(取材者提供)
《現場に現れた“謎のパーカー集団”》『≠ME』イベントの“暴力沙汰”をファンが目撃「計画的で、手慣れた様子」「抽選箱を地面に叩きつけ…」トラブル一部始終
NEWSポストセブン
母・佳代さんのエッセイ本を絶賛した小室圭さん
小室圭さん “トランプショック”による多忙で「眞子さんとの日本帰国」はどうなる? 最愛の母・佳代さんと会うチャンスが…
NEWSポストセブン
春の雅楽演奏会を鑑賞された愛子さま(2025年4月27日、撮影/JMPA)
《雅楽演奏会をご鑑賞》愛子さま、春の訪れを感じさせる装い 母・雅子さまと同じ「光沢×ピンク」コーデ
NEWSポストセブン
自宅で
中山美穂はなぜ「月9」で大記録を打ち立てることができたのか 最高視聴率25%、オリコン30万枚以上を3回達成した「唯一の女優」
NEWSポストセブン