スポーツ

プロ野球選手の「10年生存率」 2005年ドラフト組は「47%」

 指名された直後に高らかに目標を掲げて、その通りになった選手もいる。ヤクルトの「トリプルスリー」男・山田哲人選手は2010年ドラフトで指名されて、

「まさか1位指名とは思わなかったので嬉しい。期待を裏切らないようにヤクルトに欠かせない選手になりたい」

 と、その通りの選手になった。ちなみに山田選手はヤクルトが指名競合した斎藤佑樹投手、塩見貴洋投手のくじに負けて、「外れ外れ1位」だった。

 10年以上プレーし続けた選手はドラフト時のコメントにも味がある、と思わせてくれたのが、今季のプロ野球界の天下人、ソフトバンクホークスの工藤公康監督のドラフトである。それはまさに「工藤劇場」ともいいたくなるような入団劇だった。

 プロ志望届もない1981年のドラフト会議の4日前、突然工藤家が指名挨拶のない日本ハム、大洋(当時)、ロッテを除く9球団に「指名お断り」の文書を発送する。理由は甲子園出場後に慢心の気配がする工藤の人間形成のために、社会人野球の熊谷組に進ませたい、という父親の意向だった。工藤はドラフトの目玉とも言われていただけに、残念がるスカウトもいた。

 しかしドラフトでは西武が6位で工藤を強行指名する。「交渉に来られても玄関には入っていただくが、家には上げません」と頑なな態度を崩さない工藤父。しかし交渉に入るや、次第に態度を軟化させ、入団に前向きとなっていく。もともと他球団に指名させないための「芝居」だったのではないかという疑惑が浮上し、「バカバカしい」というヤクルトスカウトのコメントが紹介されている。

 これで一転して入団かと思いきや、そこは工藤劇場たるゆえん、「当て馬」にされた熊谷組が「うちに入社する約束をしている。二重契約ではないか」とゴネだした。しかも西武が工藤家に渡した契約金6000万円の小切手を保管しているという。

「なぜうちが工藤さんに渡した小切手を熊谷組が持っているのか、意味がわからない」

 という西武フロントの戸惑いに爆笑した。そりゃたしかに意味がわからない。結局、工藤父があちこちに頭を下げて周り、熊谷組も大人の配慮をして丸く収まった……とはならず、工藤劇場の第三幕があがる。

 今度はなんと、工藤が通っている名古屋電気工業(現・愛工大名電)高校の校長先生が「今回の事態は学校側として遺憾に思う」という文書をメディアに公表したのである。高校生が在籍している学校の校長先生に公然と批判されるというのは、前代未聞だろう。予期せぬ伏兵の登場に、またもや頭を下げて回る工藤父。その間には工藤が学校の許可無く自動車教習所に通っていたことが発覚し、校則違反の処罰として丸坊主にされるというオマケもついた。

 ようやく入団記者会見にこぎつけたのは、なんとドラフト翌年の1月12日だ。ドラフト会議が11月25日と遅いこともあるが、すったもんだあった影響は大きい。その入団記者会見に際して、あちこちに迷惑をかけたのだから殊勝な態度で臨むかと思いきや、さすが工藤は違う。

「(目標となる選手は)いません。目標とする人を作ると、その人のまねをするだけで超えることはできないから、それより自分だけの独特の型をもちたい」

「ライバルはいません。自分のことだけを考えて、結果的に勝てればいい」

 と言いたい放題。これには西武フロントの坂井保之球団社長(当時)も、

「今日は完全に完封されちゃったね。今年の契約更改が思いやられるね」

 と呆然としたコメントを残し、工藤劇場のオチとなった。

 もし工藤が10年かそこらで消えて無くなる選手だったら、この騒動も関係者の苦い想い出にしかならなかっただろう。しかしその後の工藤の輝かしい球歴と合わせて考えると、記者会見の言葉にも含蓄を感じ、工藤のユニークエピソードの一章となる。厳しい世界だが、勝てば黒いものも白となるというのもプロ野球の魅力のひとつである。

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン