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【書評2015年の1冊】時代を映す名曲を多く生んだ豊かな文化

 毎回、書評委員が推薦する本を紹介する「この人に訊け!」。今回は、「『日本とは何か』『日本人とは何か』を考える2015年の1冊」をテーマに本を選んでもらった。

【書評】『日本鉄道歌謡史 1.鉄道開業~第二次世界大戦 2.戦後復興~東日本大震災』/松村洋・著/みすず書房 1=3800円+税、2 =4200円+税

【評者】川本三郎(評論家)

 車の免許を持っていない。現在、七十一歳だから、これからも持つことはないだろう。車の免許がなくても生活してゆける。これは、東京という鉄道網が世界にも類がないほどしっかり整備されている都市に住んでいるおかげだろう。

 車社会になっている地方の町だったら暮らしてゆけない。田舎暮らしをしたくても結局は断念せざるを得ないのはそのため。近代日本では鉄道が大きな役割を果たした。鉄道は交通手段であると同時に、文化になった。
 
 そのあらわれが歌。汽笛一声新橋を…の「鉄道唱歌」をはじめ近年の歌で言えば、石川さゆりの「津軽海峡・冬景色」やくるりの京浜急行を歌った「赤い電車」など実に数多くの鉄道の歌が作られてきた。日本では鉄道は豊かな文化だったことが分かる。

 松村洋さんの『日本鉄道歌謡史』は鉄道の歌の歴史を辿った全二冊の労作。松村洋さんは音楽評論家。そして子供の頃から鉄道も大好きだった。音楽と鉄道が組み合わさることで本書が生まれた。

 明治から現代まで章題になった曲だけでも五十一曲もある。松村さんは一曲ごとに、歌に詠みこまれた鉄道の意味を考えてゆく。駅での別れの歌が多い。故郷を去ってゆく者と残る者。戦場へ出征してゆく兵士と見送る家族。鉄道の駅とは日本人にとって悲しい別れの場所だった。しかし、車社会になるにつれ、駅の別れも消えてゆく。同時に鉄道を歌った名曲も少なくなる。

 2016年には、新幹線が北海道まで延長する。リニアモーターカーもいずれ実現するだろう。新技術の開発は、古いものを見捨てる。置き去りにする。現在、鉄道を語ることが盛んだが、実際にローカル線の旅をしてみると、いかに不便かが分かる。

 日本は「新幹線王国」かもしれないが、もはや「鉄道王国」ではない。これは本当に悲しい現実だ。地方の再生が言われる。簡単な解決策がひとつある。鉄道を大事にすること。

※週刊ポスト2016年1月1・8日号

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