「最初の2週間はIGF-1留置とステロイド剤注入ともに、同程度に聴力が回復しました。ところが4週間を過ぎるとステロイド剤のほうは聴力がそれ以上変化しなかったのですが、IGF-1は、じわじわと聴力が回復する傾向がありました。1か月すぎても聴力は戻っています。ゆっくりですが、良くなることが確認されています」(中川医師)
IGF-1は重篤な有害事象が確認されず、鼓膜を切っても60人全員の鼓膜孔が塞がったが、ステロイド注入では15%に鼓膜穿孔(こまくせんこう)が残った。聴覚再生のメカニズムとしてIGF-1を用いた治療では、音の振動を捉えるセンサーである有毛細胞の生存促進や有毛細胞と聴神経間の神経接合の再生により、聴力が回復するのではと推測されている。
現在、医師主導治験に向け準備が進められ、平成29年度には開始される予定だ。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2016年3月4日号