◆捏造も散見される
さらに、『中国人慰安婦』に登場する慰安婦らの証言は裏付けがないばかりか、捏造された記述も散見される。たとえば、同書は南京大虐殺の記録『程瑞芳の日記』から「1937年12月17日、日本兵が大学に押し入り、11人の女性を拐っていった。
強姦や暴行を受けた9人が戻ってきた」という記述を引用しているが、イリノイ大学出版から刊行されている英訳版の同日の日記には「強姦や暴行」に関する記述は全くない。
本来、客観的裏付けのない資料は証拠能力に欠く。しかし、そのような資料が採用され、あまつさえ公開さえされないのが、現在のユネスコの記憶遺産制度である。中国は、南京大虐殺の登録の際に用いられた資料をいまだに全面公開していない。また申請の際、ユネスコに提出されたのは、資料の一覧と保管場所を記しただけの、ただの”目録”だったことが判明している。
このままでは『中国人慰安婦』を核とする慰安婦資料が中国・韓国・台湾・フィリピン・オランダ・北朝鮮の6か国から共同申請され、慰安婦問題も南京大虐殺の記憶遺産登録と同じ轍を踏むことになる。
日本は直ちに客観的事実を積み上げ、徹底的な学術的反証を行うべきだ。同時に、ユネスコの不透明な審議制度を改革すべく、国際社会に広く訴えていく必要がある。
【プロフィール】高橋史朗(たかはししろう):1950年兵庫県生まれ。早稲田大学大学院修了。米・スタンフォード大学フーバー研究所客員研究員、臨教審専門委員、埼玉県教育委員長などを歴任。『日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと』(致知出版社)など著書多数。新著『「日本を解体する」戦争プロパガンダの現在 WGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)の源流を探る』(宝島社)が2月下旬に発売予定。
※SAPIO2016年3月号