二つ目は「事業の切り売りはしない」ということ。産業革新機構の再建案ではソーラー事業を売却することになっていたが、鴻海は再チャレンジするかもしれない。というのは、シャープのソーラー技術はレベルが非常に高いからである。
現在、世界のソーラー市場は低価格の中国勢に席巻されているが、中国を知り抜いている鴻海の郭台銘(テリー・ゴウ)会長がシャープの技術力を活用し、規模と資金力に物を言わせて参入したら、中国勢を凌駕する可能性があるだろう。
産業革新機構の再建案では宙ぶらりんになっていたビジネスソリューション事業や電子デバイス事業についても、郭会長は維持すると思う。
そして三つ目は「シャープのブランドをこよなく磨いてくれる」ということだ。前述したように鴻海はEMSとしては世界最大の企業だが、自前のブランドは持っていない。これまで作ってきたのは、すべて「他人様の製品」だ。このため郭会長は、いくら世界を股にかけて大々的にビジネスを展開していても、会社の知名度が低いせいで満たされない思いをしてきたと推察される。
だから彼は他社の製品を注文通りに組み立てて決められた期日に納品するだけでなく、自分でゼロから設計した製品を作って自分で値段も発売日も決め、自前のブランドで世界に売ることを強烈に欲しているはずだ。となれば、彼がシャープを手に入れたら、ブランドを磨くための投資は惜しまないと思うのである。実際、鴻海は「シャープブランドの継続使用」を約束している。
以上三つは、いずれも産業革新機構にはできないことであり、シャープにとっては願ったり叶ったりで大きなプラスとなる。海外企業の買収による液晶などの「技術流出」を懸念する向きもあったが、鴻海が知らない液晶技術などありはしない。そういう技術がシャープにあったら、経営破綻の危機に陥ることはなかったはずである。
※週刊ポスト2016年3月25日・4月1日号