「クロに助けられました」
正敏さんがそう言いながらクロのお腹を撫でると、クロは気持ちよさそうに目を閉じた。
熊本市には、親が養育できない新生児を預かる、いわゆる「赤ちゃんポスト」が設置された慈恵病院がある。その病院でも、壁にひびが入ったり外周の地面の舗装が浮き上がるなどの被害が出た。本震に襲われた時、産婦人科では分娩の真っ最中だった。
「スタッフは『お母さん、落ち着いて。大丈夫、大丈夫』と声をかけていました。その後の余震の間にも分娩があり、17日までに病院では12人の赤ちゃんが誕生しました」(竹部智子看護部長)
病院には近隣から130人ほどが避難してきた。しかし水は濁って使えず、備蓄してあった食料も足りない状態。
「そこでホームページで支援をお願いすると、お水やお米、野菜や果物まで、たくさんの支援がいただけました」(竹部部長)
支援者のほとんどは慈恵病院でお世話になった人たち。赤ちゃんを抱えてお米を持ってきた30代女性は「昨年、病院でお産をした」と言う。
「匿名の支援の中には、『赤ちゃんポスト』にかかわった人たちの“恩返し”もあったと思います」(病院関係者)
熊本県立国府高校のグラウンドでは、避難してきた地域住民や高校の教師、学生らが協力し、グラウンドに椅子を並べて「SOS」を書いた。
「カセットコンロなどを使って炊き出しをしていましたが、水が足りない、食料がない、トイレットペーパーもないという状態で。“自分たちで動かなきゃ”と思って『カミ パン 水 SOS』と書きました。それが上空のヘリの目にとまったらしく、ツイッターで拡散されて近隣の人たちからいろんな物資が届くようになりました」(近隣住民の村上次郎さん)
切迫した被災地の状況。だが、これは他の地域に住む人たちにとっても決して他人事ではない。
撮影■渡辺利博
※女性セブン2016年5月5日号