「長さ120kmともなればM8クラスの巨大な直下地震となります。これは行方不明者が10万人を超えた関東大震災に匹敵する規模になる」(渡辺さん)
関東大震災当時よりはるかに人口が増え、交通機関も密集している東京で、同規模の地震が発生したらどうなるか。
「想定綾瀬川断層の上には上越・東北新幹線をはじめとする鉄道路線、東北自動車道や首都高速道路などの主要道路が通っていますが、それらの首都の大動脈が寸断されます。荒川の堤防が各所で決壊し、東京の下町が激しい水害に襲われる危険性も高いでしょう」(渡辺さん)
そうなれば、被害の規模は国が「最悪のケース」として想定している「死傷者数最大15万人」ではすまないかもしれない。文科省の地震予測では「空白地帯」のように見える都心部にも、活断層が眠っているという。
元日本活断層学会副会長の豊蔵勇さんは、都心部を縦に走る何本もの「推定断層」を発見した。
「通常、活断層は地表に現れた地形から判別しますが、開発が進んでいる大都市では困難です。そのため研究者の間では都心部で活断層を探しても無駄だという先入観がありました。しかし、昭和30年以降に行われた地下鉄、下水道などの公共工事やビル建築の際に取られた精度の高い地中のボーリングデータが膨大に存在しており、入手可能な一部を解析することで“見えない断層”を推定することができたんです」(豊蔵さん)
例えば東京23区のど真ん中の山の手台地には、JR田端駅から飯田橋を通り、赤坂御用地に至る全長約7kmの「飯田橋推定断層」など3本の推定断層がある。東部の下町エリアにも、何本もの推定断層が平行して存在しているとみられている。
これらの推定断層のどれが、いつ、地震を起こすかわからないとすれば、東京直下型地震の発生確率はもっと高い数値になるはずだ。
もちろん危険なのは東京だけではない。大阪には都心部を縦に貫くように上町断層が存在する。政府の中央防災会議がまとめた地震被害想定によれば、上町断層の地震による死者数は最大約4万2000人、全壊建物は約97万棟を超えるというから凄まじい被害だ。
また、京都も「活断層が作った盆地」といわれるほどで、市街地を取り囲むように活断層が走っている。多くの寺社や文化財も、京都の街並みも、いつ直下型地震によって壊滅するかもわからない。
われわれにできるのは、いつ活断層による直下型地震がくるかもしれないという覚悟を持つことと、防災対策を常にしておくことしかない。
撮影■渡辺利博
※女性セブン2016年5月5日号