表面上、教唆を回避するため「勝手なことをしてすみません」という謝罪の言葉になったにせよ、実行後、責任ある立場の人間に連絡しないとは考えにくい。なにしろ組織に迷惑はかけられない。逃走するか出頭するかの相談がいるし、そのためには状況説明をしなくてはならない。

 痕跡を残してしまい逮捕は確実ということになれば、地元の警察と出頭日を内密に取り決め、お目こぼしとして長い懲役前の準備期間をもらうこともできる。事後に限れば、暴力団も「報・連・相(ホウ・レン・ソウ)」を行なうのだ。

 殺害の首謀者クラスが出頭を把握していたら、司忍六代目の上京と重なることを躊躇し、指揮官に指示を仰ぐだろう。司六代目はともかく、少なくとも弘道会の作戦参謀は、同日進行を分かった上で上京を実行している可能性が高い。ならば抗争の泥沼化を覚悟し、その意思表示をしたのかもしれない。司六代目の上京は、徹底抗戦の決意を内外に示すパフォーマンスだったと考えるのは、そう不自然ではない。

「あんた方がそう考えるのは自由だ。あんたたちの責任で、好きに書いたらいい」

 六代目山口組の幹部は肯定も否定もしなかった。

「我々は粛々と、やるべきことをやるだけだ」

※週刊ポスト2016年6月24日号

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