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末期癌の医師・僧侶 「宗教は阿片」の意味は

『ヘーゲル法哲学批判序説』でマルクスは合理的な解決が可能な場合、病気で言えば治癒可能な場合についてだけ論じています。それでは治癒不可能な病気の場合はどうでしょうか。その場合には、マルクスも「阿片と宗教」の重要性を認めたことでしょう。

 現在、治癒不可能な病気の緩和ケアにおいて「阿片と宗教」は非常に重要です。先ず前提として身体的痛みが緩和されることが必要であり、ここでオピオイド(阿片類縁物質)が役に立ちます。オピオイドは通常の痛み止めよりも桁違いに作用が強いので、上手に使えば有用です。

 しかし日本ではオピオイドの多くが麻薬扱いなので、外国に比べて消費量が桁違いに少ないというのが現状です。治癒不能の病気で、強い痛みがあるのにオピオイドを処方してもらえない場合には、医師を変えたほうが良いでしょう。

 自己の命が無くなるという状況で役立つのは、本人にとって「自己の命を超えた価値」としての「宗教」です。そして、人生の物語を完成していく中に本人が見出す「本人の人生の価値」、それこそが本人の「宗教」なのです。

 素晴らしい人生の物語は、人類の歴史の中で選ばれ、古典となります。個人の「宗教」を見出すには、古典が参考になるでしょう。

●たなか・まさひろ/1946年、栃木県益子町の西明寺に生まれる。東京慈恵会医科大学卒業後、国立がんセンターで研究所室長・病院内科医として勤務。1990年に西明寺境内に入院・緩和ケアも行なう普門院診療所を建設、内科医・僧侶として患者と向き合う。新刊に『いのちの苦しみは消える 医師で僧侶で末期がんの私』(小学館)。

※週刊ポスト2016年6月24日号

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