週刊朝日は言うまでもなく朝日新聞社の発行だが、昔から本紙に批判的な記者が原稿を書けるという傾向がある。その理由を元朝日新聞記者で『朝日新聞血風録』の著者稲垣武に直接聞いたら「派閥争いですよ」と苦笑して答えていたが、それが事実であろうとなかろうと本当のことが書けることはいいことだ。そして前出の週刊朝日の記事にはこういう記述もある。
〈北朝鮮社会のすばらしさを謳(うた)い、多くの在日朝鮮人に「日本人が書いた本だから」と地上の楽園を信じさせた『38度線の北』の著者、歴史学者の寺尾五郎氏(1999年没)に帰国後会うや、
「聞くと見るとは大違いでした」
と率直に吐露した。
「そうなんだよ」
と、平然とうなずく寺尾氏に、この人は自分をごまかしていると直感した、と小島さんは言う。〉
文中の小島さんとは、当時日本共産党で帰国事業にかかわっていた小島晴則のことで、帰朝報告会を開き多くの在日朝鮮人をだまし帰国の途に就かせたことを反省し、いわば懺悔の形でこの記事に登場しているのである。
小島さんは新潟県内80カ所で、訪朝報告会を開いた。ここでも平然と、
「帰国者はなんの心配もなく幸福に暮らしている」
としゃべったという。
「まだ、社会主義への幻想があったから」
と釈明するが、それだけではなかったろう。帰国事業は「仕事」だった。やめたら飯の食い上げだ。訪朝後、帰国しようか迷っている人に、「何も心配ない」と背中を押すこともあった。