「『トカレフ』が終わって『忠臣蔵外伝 四谷怪談』、それから『GONIN』、NHKで『天上の青』。ともかく悪、弱さ、そういうものに自分自身が発露を求めて、そういうお芝居ばかり受けてきて。で、『天上の青』である女優さんの首を車の中で絞める時に胸が痛くなっちゃって。それから、しばらくはもう人を殺す役はやめようと思ったんですよ。
その後は、市井の人間をどうできるんだろうとか、普通にやるってどういうことなんだろうとか。悪とか何かに特化した人間でなく、ごくごく普通に生きる、日常で抱えてることって何だろうという役を好んでやらせてもらうようになりました。
テレビの連ドラに出た時は『魂を売った』と映画界から反発はありましたが、日本の全員がちょっと5センチくらい浮いていた時に浮いたまんまやるということに対しては、僕自身は抵抗感がありませんでしたね。
僕の毎回のテーマは、何か提示されたものを自分でどうやって超えるかということです。たとえば三谷さんが『コメディチックではなくコメディです』と言った時に、ハードルは一気に上がるんですよね。コメディ演技をするのは難しいし、大変です。そのハードルを提示された時、よしやろうという気になる。
だから役者は無酸素運動です。一息でバーベルを上げるような。スタッフは、企画してから終わるまで長いスパンがあるので、有酸素運動だと思います」
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年8月5日号