このデータだけだと、「だから老害は自分のことを分かっていない」という声がわき上がりそうだが、長寿の希望は医療レベルがここ30年で4歳分以上は発達しているのだからそれはそういうことだろうし、体力や気持ちが実年齢よりも若いのなら老人たちにどんどん働いてもらえばいい、と考えることもできる。いや、すでに人不足の際たる介護業界を下支えしているのは、労賃が安く3Kな仕事でも厭わない高齢者層であったりもする。元気な老人が多いから超高齢化社会がなんとか持ちこたえている部分もある。
しかし、こうした調査結果がある一方で、こんな数字も出ている。生活の見通しについて尋ねたところ、「先の見通しは暗いと思う」と答えたのが、1986年は32%だったのが、今年は47%と、15ポイント跳ね上がっていた。さらに、現在欲しいものについて尋ねたら、「お金」と答えたのが、86年28%、今年41%。「幸せ」と答えたのが、86年31%、今年16%。
欲ボケが増えたということだろうか。違う。今現在の生活費の不安をリアルに抱えている老人が増加しているのだ。
それが証拠に、厚生労働省の「所得再分配調査」などを見ると、60歳以上は下の年齢階級に比べて、所得の格差をはかる指標のジニ係数が大きくなっている。例えば、月に50万もの年金を受給している夫婦が大企業OBを中心に一定数存在するが、月に数万円の国民年金しか収入源がなく、老後崩壊している老人たちはより大量に存在し、増えている。
いわゆる老々格差の問題だ。同世代間格差はどの世代にもあるが、この国には歳をとるほどその差が大きくなる構造がある。金持ち爺さん婆さんと、貧乏爺さん婆さんの階層社会が実際に過酷であるからこその、現在ほしいもの「お金」41%なのである。
マズローの欲求階層ビラミッドをご存知の方は、あの三角形の図を思い浮かべてほしい。一番上の三角形の部分が「自己実現の欲求」。要は、真善美の追求を最大の価値として生きている状態である。その直下の台形部分は、「承認(尊重)の欲求」。他者から尊敬されることで自信や達成感や地位を得たいとする気持ちである。たいていの会社内の出世競争は、この欲求をエネルギー源にしている。
そのまた下のもう少し幅広の台形部分は、「所属と愛の欲求」。ちゃんとした組織に雇用されていること、家族がちゃんといること、友とか仲間とかいえる関係がまわりにあることを欲している。逆に言うと、孤立を恐れる気持ちだ。べつに尊敬の対象なんかでなくてもいい、仲間と一緒にいられたらそれで満足、という群れの心理である。
マズローの欲求階層は5層に分けられており、以上の上位3層は「幸せ」のレベル分けと言えるかもしれない。「所属と愛の欲求」が満たされていれば、「承認(尊重)の欲求」がわいてきて、それも満たされてようやく人は「自己実現の欲求」に向かう。このマズローの仮説には、科学的裏付けに乏しい、西洋的価値観に偏っている、などなどの批判もあるが、ざっくりとしたところは納得ではないだろうか。