「実際、情報処理の精度も危機管理も『一次の時とは別人だ』と麻生さんは言いますが、あえて本には書かなかった。その質問はいずれ本人にぶつけた上で事実として書くべきだし、退任後に訊くのは学者の仕事で、記者の仕事ではない。その変化が何によるものなのか、彼の言動が憲法改正等の課題と不可分なうちに国民に伝えるのが、僕は彼らとたまたま近い立場にいる、自分の仕事だと思うので」
好き嫌いや論評ではなく、何を見たかに厳密な本書は、表向きは中立を謳うジャーナリズムへの批判としても読める。現に対象との圧倒的近さが右は右、左は左の論理に縛られた情報の隙間を埋め、政治という化け物じみた運動の意外な細やかさや人間味を伝えて余りある。まさに格好の材料だ。
【プロフィール】やまぐち・のりゆき:1966年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。1990年TBS入社。報道局カメラマン、ロンドン特派員、社会部を経て、2000年政治部へ。2013~2015年ワシントン支局長。昨春、ベトナム戦争時の韓国軍慰安所を巡る記事を「週刊文春」に寄稿。その手続きを巡って営業部に異動となり、今年5月退社。現在はフリージャーナリスト兼アメリカ系シンクタンクの客員研究員として政治外交分野で活動。176cm、73kg、O型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/三島正
※週刊ポスト2016年8月5日号