日本を舞台に北朝鮮と韓国が暗闘を繰り広げている。発端となったのは4月に中国浙江省で発生した北朝鮮レストラン従業員の集団脱北事件(*注)。北朝鮮当局は、これを韓国の情報機関・国家情報院(国情院)による「拉致」と指弾し、従業員の送還を強く求めた。その北朝鮮の「怒り」は、海を渡って日本に波及した。ジャーナリストの李策氏が解説する。
【*注/今年4月、中国浙江省の北朝鮮レストランで、13名の集団脱北事件が起こった。レストラン経営は北朝鮮の「外貨稼ぎ」の基幹事業の一つ。北朝鮮は国情院の指示によって、集団脱北が計画されたとして強く、韓国を非難した。】
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5月31日午前、東京・麻布十番の一角が、騒然とした空気に包まれた。在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の若手メンバー約70人が集結し、駐日韓国大使館に対し、抗議デモを行ったのだ。警察に事前の届け出をしない「奇襲デモ」である。
近年、動員力が落ちたと言われる朝鮮総連を、今になって行動に駆り立てたものは何か。表向きには集団脱北事件を画策した韓国、そして国情院への抗議行動である。だが、それだけでは、逮捕者が出る可能性もあったデモを説明できない。
朝鮮総連は従来、韓国政府の正統性を認めない立場から、大使館を無視する傾向が強かった。そこに変化を与えたのが、2000年6月、韓国の金大中大統領と金正日総書記との首脳会談だった。朝鮮半島の緊張は緩和し、それまで韓国訪問を禁じていた朝鮮総連の人々も、大挙して韓国を訪れた。
そもそも彼らは、政治的な信条などから北系の組織に属しているが、9割以上は韓国に故郷がある。そのため南北の雪解けを信じた人々は、国籍を続々と変更。これを韓国の左派政権(盧武鉉大統領)も歓迎した。朝鮮総連は北朝鮮を支持していながら、メンバーの大半は韓国籍という「ねじれ」を抱え込んだ。