ご存じ、このドラマは戦後に刊行された名雑誌『暮らしの手帖』をモチーフにしています。ストーリーも、雑誌の創刊者・高畑充希が演じる常子(大橋鎭子)や、唐沢寿明が演じる花山編集長(花森安治)らが中心となって進行していきます。

 ちなみに『暮らしの手帖』は非常に個性的な雑誌。何よりも、企業から広告を取らず自らの手で商品テストを繰り返し消費者に真実を伝える、というスタンスが独特でした。

 広告をとらない→徹底した批評性の保持・商業主義に流れない位置→消費者の代弁者

 という姿勢が、戦後社会に強烈なインパクトを与えたわけです。他の雑誌とは一線を画す、そうした個性的な雑誌をめぐるストーリーを、ドラマの中でいかに描いていくのか。

 例えばドラマの中で、広告掲載の是非を巡って、編集長・花山と常子とが対立するシーンがありました。常子は編集長に黙ったまま広告の掲載を決め印刷し発行するというエピソードが織り込まれたのです。事実とは異なるそうした脚色が、どこまで許されるのか。

 いったいドラマにおけるモチーフとは何なのか? モチーフとモデルとはどう違うのか? モチーフなら自由に脚色したり創作していい、ということなのか?

 議論が盛り上がる中、NHKプロデューサーの落合将氏が「モチーフとモデル」についてのインタビューに答えていました。

「基本的にそんなに差はないと思います。簡単にいうと、朝ドラは、多少コメディタッチにデフォルメしています。朝からあまり重いものは敬遠されるし、より多くの方が見やすく、楽しんで観て頂かねばならないので。題材の事実と多少距離感が必要になるんです」

「花森安治と大橋さんという人は、日本でほとんどの人が知らなかったと思いますが、2016年の今こそ知らしめないといけないふたりだったという気がします」

(「『とと姉ちゃん』Pに聞いた、なぜ「暮しの手帖」や大橋鎭子や花森安治はモデルでなくモチーフなのか」2016/08/13 Yahoo!ニュース個人)

 高い視聴率と、ブーイング。この「ねじれ現象」の発火点はもしかしたらこのあたりにあるのかもしれません。

『暮らしの手帖』は1970年代、100万部近い部数の超ベストセラー国民雑誌。このプロデューサーのように「ほとんどの日本人が知らない雑誌」として、つまり今の若い人に焦点をあわせたアプローチで扱うのか。それとも、100万人の読者の一人としてドラマを見るのか。まったく違う見方感じ方が生まれるはずです。

 花森と大橋が格闘してきた雑誌創刊の経緯や誌面作りの苦労についても、同じことが言えるでしょう。「多少コメディタッチにデフォルメしています。朝からあまり重いものは敬遠される」という制作側の軽いスタンスを、観る側がどう受け取るのか。

 視聴率の捉え方も同様。数字が一定程度高ければ「ドラマは成功した」とするのか。それとも、数字だけではなく満足度や視聴者の反響といった「質」について問うのか。

 インタビューの中で落合プロデューサーは、「勝因」について語っているので、高視聴率を得てドラマは成功、と捉えているようです。一方、ネット上やNHKに寄せられた批判的な意見については言及していません。

 戦後社会に大きな影響を与え、一時期100万人もの読者に愛読されていた雑誌。それをモチーフに公共放送がドラマを作るとすれば、視聴率のみで評価できないはず。批判的な意見に対する制作陣の見解もぜひ聞いてみたい──素朴にそう感じるのは、『暮らしの手帖』が子供の頃身近にあった私だけではないかもしれません。

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