「花山の気難しい性格を表現するために、鉛筆や筆、万年筆はすべて同じ向きにして、お尻をそろえて並べています。当時は鉛筆削りがなかったので、鉛筆は1本1本、かみそりやナイフで削り、あたかも使っている雰囲気を出すために、芯の長さをバラバラにしました。ずっと握っていると先の木の部分が黒くなるので、そうした使用感もわざと出しています」

 注意して見ていなければわからないような机の上の鉛筆に、それほどの労力がかけられていたとは…。さらに驚いたのは、インク壺。花森さんが実際に愛用していた海外メーカーのものをわざわざ探してきたのだという。

「インク壺は口のところに小さなポケットがついていて、最後の一滴まで無駄にせずに使えるもの。花森さんはそれが気に入って、ずっと大事に使っていたそうです。今はもう販売されていないので日本全国いろんな文房具店に当たり、1個だけ置いてある店を見つけました。それと小道具さんが持っていたものを合わせて2個、花山の机に並べています」(枝茂川さん)

 刀のつばを文鎮代わりに置いてあるのも、独特の感性をもつ花山のキャラクターを表現するためだそうだ。

「私の経験では、ここまで細部にこだわったドラマはなかなかありません。机が映った時に、それだけで“そこに花山がいる”と思わせなければいけない。デスクひとつからも、その人のキャラクターや仕事の仕方が透けて見えると思うんです」(近藤さん)

 一方、他の編集部員の机は、机と机の間に隔たりがなく、文房具も共用になっている。これは常子の“社員を家族のように大切にする”という考えを形にするためだとか。

「ものを大切に使うということで、受話器にカバーをしたり、ペン立ての下に敷物を敷くなど、机を傷つけないような工夫と同時に、女性らしさも表現しています」(枝茂川さん)

※女性セブン2016年9月8日号

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