『せいせいするほど、愛してる』は、明かなSNS対策。このところ恋愛ドラマは、胸キュンシーンを連発してSNSの反応を増やし、視聴率につながるリアルタイム視聴を狙っていましたが、今作はその傾向をさらに加速させています。「胸キュンも笑いも一緒くた」のところまで振り切ったことが、“タッキーイジリ”になっているのでしょう。
『神の舌を持つ男』は、自ら「構想20年」と話しているように、堤幸彦監督の強烈なこだわりによるもの。堤監督の名作『ケイゾク』(TBS系)、『TRICK』(テレビ朝日系)よりも前から頭の中でイメージしてきたものだけに、その思い入れの強さが強烈なイジリに表れている気がします。
『はじめまして、愛しています。』も、江口さんが演じるキャラを「僕が尊いと思う人間の愚直さを投影した、この作品の中でも好きな役」と語る脚本家・遊川和彦さんの思い入れによるもの。そのキャラクター造形が「たまたま『ひとつ屋根の下』(フジテレビ系)のあんちゃんと似ていた」ということでしょう。遊川さんは「敵であり味方でもあるのが、作り手と役者の関係」ともコメントしていたので、もしかしたら確信犯かもしれません。
『遺産相続弁護士 柿崎真一』は、むしろ三上さんの魅力を最大限に生かすためにイジっているように見えます。このところ三上さんは民放連ドラの主演がなく、WOWOWのシリアスな作品が主戦場となっていたため、「もう1つの顔であるコミカルさを引き出そう」という意図があったのでしょう。どんなダメ男を演じても様になるのが三上さんであり、かつて『あなただけ見えない』(フジテレビ系)で女性を含む1人3役でイジられまくった姿を思い出します。
4人に共通しているのは、「制作サイドにとってイジリ甲斐のある俳優」ということ。ふだんマジメな役やピュアな役が多いだけに、「ギャップ狙いも含めて、ついイジリたくなってしまう」のでしょう。実際、4作のプロデューサー、脚本家、演出家は、自分の思い描く世界観を楽しそうに作っているように見えます。
ただ、イジられる側のイケメン俳優が「持ち味を発揮」、あるいは「新境地を開いた」と言えば、必ずしもそうとは言えません。特に序盤は、悩みながら、迷いながら演じているように見えましたし、俳優・制作サイドともに、いまだ手探りの部分を残すようなシーンが散見されます。
終盤に向けてイジリはエスカレートしていくのか? それとも一転してシリアスモードに切り替えさせるのか? 連ドラのセオリーとしては後者の可能性大ですが、『せいせいするほど、愛してる』は、最後までイジリを貫き、伝説になるまでやり切ることが、視聴者を喜ばせるのではないでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。