◆「ほれみたことか!」
「片側空けは間違っている」と主張する人々の根拠は、単に“非効率だから”というだけではない。エスカレーターなどの昇降機メーカーで構成されている日本エレベーター協会の事務局が「片側空け」の危険性について指摘している。
「階段と違って、エスカレーターは横幅が狭く、段差が高いなど、そもそも歩かないことを前提に設計されている。立ち止まって手すりにつかまるのが正しい乗り方です。手が不自由で特定の側を空けるのが困難な人もいる」
東京消防庁では、2011年からの3年間で、エスカレーター関連の事故で、3865人が救急搬送されている。そのため、全国のJR、私鉄、空港などでは7月19日から、一斉キャンペーンを始め、エスカレーターでは“両側に立ち、歩かない”ことを呼び掛けている。
全国でもいち早く同様の注意喚起を行なっていたのが名古屋市だった。市営地下鉄では2004年から、エスカレーターでの歩行禁止をアナウンスしている。
「事故を少しでもなくしたいとの思いから活動に取り組み、現在はかなり浸透してきていると考えています」(市交通局駅務課指導係)
こうして名古屋で定着した「両側立ち」は効率的なだけでなく、安全な乗り方ということになる。
この事実を名古屋で絶大な人気を誇るラジオパーソナリティのつボイノリオ氏に伝えたところ、「ほれみたことか!」と、満面の笑み。
「週刊ポストには、きちんと勉強してから書くようお願いしたい。名古屋では江戸時代から工業が発展し、世界のトヨタまで生まれた。それは名古屋人には情ではなく、道理で考える文化があったからだと思う。
だから、たとえ揶揄されても、安全で人を多く運べるエスカレーターの乗り方を取り入れたのでしょう。全国の人にもそういう名古屋のことをきちんと理解し、見直していただきたい」
世界を巻き込むエスカレーター論争。今後、「名古屋流」の乗り方は、日本はもちろんのこと、世界のスタンダードになるかもしれない。
※週刊ポスト2016年9月9日号