『天皇論』などの著作で知られる漫画家の小林よしのり氏も同意見だ。
「譲位(生前退位)とは即位と一体です。本来、皇室典範を改正しなければできないはずの譲位を特措法をつくって行なうということは、即位まで特措法という例外的な措置で行なうことになる。国の象徴である天皇の即位が憲法と皇室典範という正当な手続きに則ったものではなくなり、天皇の権威そのものを傷つけることになりかねない」
一方、皇室典範改正反対派は生前退位そのものに反対論が強い。保守政界の重鎮、亀井静香・元建設相の主張は代表的な見解だろう。
「天皇陛下は憲法で『国政に関する権能を有しない』と定められている。ですから、今回のお気持ちのようなことを公に言うお立場にないんです。天皇陛下は非常にまじめな方だから、海外への戦没者慰霊や被災地慰問など、できることは何でもやろうとされるあまり、本来の職務が正確に果たせないとお考えになり、生前退位のお気持ちを述べられることになった。もっと早く宮内庁が公務を減らすべきだった」
生前退位をめぐる見解は島村氏や小林氏と真逆だ。しかし、政府が「特措法」という手段で対応することにはやはり厳しく批判した。
「政府は生前退位に一代限りの特措法で対応する姿勢だが、これは間違い。本来、仰ってはならない陛下の個人的なお気持ち表明に、政治が応えてはならないのです。もし、天皇の意向に沿って生前退位を認める対応をすれば、いずれは即位を拒否する方が出てこないとも限らない。そうなれば日本の天皇制は持たなくなる。天皇制の終わりの始まりになってしまう」
保守派内の意見の食い違いに板挟みとなった安倍首相は、苦し紛れに特措法による一代限りの生前退位に逃げ込もうとして、逆に双方から批判を浴びるという皮肉な結果になっている。
※週刊ポスト2016年9月30日号