今年は、同じ十勝地方から「ブラウンスイス牛コンビーフ」も受賞した。原材料は牛肉、牛脂、沖縄の食塩のみ。最小限の素材で、最上の味を目指した。生産者の十勝清水コスモスファームは受賞後、Facebook上で次のようなコメントを発表した。
「希少種であるが故に、子牛の安定供給が見込めず、そのため畜産農家から見向きもされてこなかったブラウンスイス牛。経済的に価値が無ければ、生まれてすぐに殺処分せざるを得ない現実。『オス牛の活用』は、ブラウンスイス牛を飼育する多くの酪農家にとって大きな課題の一つでした」
畜産家にとっての牛は経済動物だ。収益につながらなければ飼ってはいられない。乳牛でもオスであれば、搾乳はできない。とはいえ安定供給が難しい以上、肉牛としての価値も不安定だ。そこでコスモスファームは保存食に活路を見出し、原料を最小限まで削ぎ落とし、無塩せきという製法で付加価値をつけた。
たとえば世界のどこかで体験した理想郷を、身の回りの生活スタイルに合わせて再構築する。たとえば目の前にある目を背けたくなるような現実を、受け入れやすい日常に置き換える。両者に共通するのは、「体験をベースにした物語」「安心・安全な素材」という消費者目線だ。そうした「使命感」や「夢」を土台にした産品は、行動することで強度を増していく。
前出の十勝清水コスモスファームの安藤智孝さんも「十勝の場合、食材にも恵まれていて、こうと決めたら突っ走るノリの良さもある。新しいものに飛びつく早さは、歴史が浅い地域の優位性かもしれないですね。私もそうですが、開拓者精神で突っ走るバカが多いです(笑)」と言う。信念とは周囲の雑音に揺るがず、初期衝動を持続するためのガソリンである。そして走り続ける姿も、アイテムに強固な物語と価値を与える。
「地域おこし」につながる強い産品は、その地域に根ざした事業者の初期衝動が持続してこそ生み出される。「地域」の土台を築くのは、あくまでそのコミュニティに参画する個人であり、産品を真剣に育てようとする個々の事業者なのだ。