自分でも中毒症状がひどいなあと呆れているのだが、この作品の何がどうしてこんなに愛おしいのか。
話をまったくご存じない方も少なくないだろうから、ごく簡単に説明すると、作品の舞台は、新宿歌舞伎町のゴールデン街と思わしき飲食店街にある「めしや」という食堂。営業時間は、夜12時から朝7時頃まで。つまり真夜中メインなので、常連たちはみんな「深夜食堂」と呼んでいる。
その店を、本名も経歴もまったくわからない、左目の上下に縦の切り傷がある作務衣姿の中年男「マスター」が一人で営んでいる。店内にはコの字型のカウンターに椅子が10脚ちょっと。隣席の客と肩と肩がすぐにぶつかるくらいぎゅーぎゅーの狭い店だ。
営業時間のほかに特徴的なのは料理の頼み方。壁のメニューに書かれているのは、豚汁定食、ビール、酒、焼酎だけ。「あとは勝手に注文してくれりゃあ、できるもんなら作るよ、ってぇのがオレの営業方針さ」と、いつもマスターが言っている。
関連レシピ本も複数出ているくらいだから、こう言っちゃナニかもしれないが、ものすごくおいしい料理が出てくるわけでもない。マスター本人も自信のある豚汁は旨そうだが、他に私が食欲をいたく刺激されたのは、とろろご飯くらいのものだ。
とろろご飯が圧倒的インパクトをもって登場したのは第一弾の映画のときで、多部未華子演じるホームレス状態の若い女の子「みちる」が、空腹に耐えきれず深夜食堂に入ってきたら、先客がそれを食べていた。「みちる」も同じものを注文したのだが、とろろご飯のご飯は土鍋で一から炊く。「時間がかかるから」と小林薫演じるマスターが別のものを出した。
その後、いろんなことがあって「みちる」は店の住みこみとして働き、お別れの際に「なんでも作ってあげるよ」と言うマスターに、「みちる」が頼んだのが、とろろご飯だったのだ。こんなに細かく説明している余裕はないのだけれど、あれは自分も今すぐ山芋をすりおろそうかと思った。そのくらい「みちる」のずるずるずるっという食べ方がおいしそうだった。
ちなみに、その年の多部未華子は第25回日本映画プロフェッショナル大賞で、主演女優賞を獲得している。貧乏と絶望から這い上がろうとする「みちる」の演じ方も、野生動物のように躍動していた。あの名演を再びと願っていたら、今回の第二弾でも、福岡から上京してきて詐欺にあった老女のお世話をする「みちる」役でいい感じだった。ベテラン女優・渡辺美佐子の演技力に目を見張ったが、多部も決して負けていなかった。
……と話はズレたが、「めしモノ」として括られるほど、実は料理が人を惹きつける作品でもないのである。出てくるメニューも、焼肉定食、焼きうどん、トンテキ、オムライス、白菜と豚バラ肉の一人鍋など、ごく大衆料理的、家庭料理的なものばかりだ。ふだん使いにとても良さそうな店ではあるが、美味を求めてわざわざ行くところではない。