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【書評】『太陽の季節』を強い日本の象徴と錯誤してきた戦後

【書評】『文學界』10月号  対談「死」と睨み合って/石原慎太郎×斎藤環/文藝春秋/定価970円

【評者】大塚英志(まんが原作者)

 このコラムをスタバで書き始めたら、外の通りをマリオの格好をした小学生が通り過ぎた。無論、ハロウィンであるからだが、安倍のアレのコスプレかと思った。今年は小池百合子が「リボンの騎士」。そう考えると石原慎太郎は田中角栄をチャネリングしたとはいえコスプレはしなかったし、それどころかかつては「慎太郎刈り」といって石原のコスプレ(じゃないか)を世間にさせたのだから、立派か。

 しかし、豊洲市場以降の石原に対する世間だけでなくメディアの掌返しは何なのか。コスプレしないからか。作家は文春に叩かれないと林真理子が『週刊文春』のコラムで書いた直後の文春石原叩き。そしてこのタイミングで『文學界』での時事放談。

 いつもながらの石原の放言なのに相模原の一件で今回はたちまち足を掬われる。ベストセラー出しても幻冬舎じゃダメなのか、文春。出版不況はかくも厳しいか。石原について論じるのは失礼だと言ってぼくの連載を中止した文春の気遣いはどこにいった。

 ふり返ってみれば、障子から陰茎を突き出しそこに本をぶつけられ「快感」(と『太陽の季節』にちゃんと書いてある)するくだりを「強い日本」の象徴のように何故か錯誤してきたのが、この国の戦後であった。リオで袋から頭出した時点で(メタファー)、安倍などはその到達点のように思ったよ。

 そういえば『太陽の季節』は自分らを「皆母親には甘えっ子」であるとも書き、ママに暴力をふるった友人が英雄視された挿話を紹介するが、対・小池の場合、ママは許してくれなかったってことか。すると何だ、全国民はママ側についたって話になる。なるほど安倍は「ボクちゃん」と言われてマジ切れしていたが、国民の表象としての「甘えっ子」の石原から安倍への生前譲位か。

 でも石原は小説が書ける分だけまだ「知的」で、だとすれば反知性主義の水準が石原から安倍まで一挙に落ちたってことか。低すぎて地下空間になってるぞ、この国の知性。豊洲化する日本。

※週刊ポスト2016年11月25日号

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