ライフ

【書評】日本を米中の手駒にさせない決意を固めよ

 年末年始はじっくりと本を読む良いチャンスだが、本読みの達人が選ぶ書は何か。明治大学特任教授・山内昌之氏は、現在の米中関係を読み解く書として『米中もし戦わば 戦争の地政学』(ピーター・ナヴァロ・著/赤根洋子・訳/文藝春秋/1940円+税)を推す。山内氏が同書について解説する。

 * * *
 次期米大統領のトランプは、台湾の蔡英文総統と電話で会談し、中国への強硬姿勢を示した。これは、貿易収支や北朝鮮の問題をめぐり、中国政府から譲歩を引き出す演出かもしれない。しかし、危険な賭けであることは間違いない。

 米台の首脳は1979年の米中国交正常化以来、じかに接触を図っていなかったからだ。トランプの姿勢は中国を刺激したが、台湾を取引のカードにしないとも限らない。他方、中国の方では国際ルール違反や軍事的脅迫など他国から嫌われる行為を日常から繰り返している。

 本書は、「戦争の地政学」という副題を付けているが、心理戦から教育戦に至るまで中国の多面的な挑発活動を手際よく整理しており、日本も2017年にますます圧力を受ける中国の強権ぶりがシミュレーションや設問解答の形式でよく描かれている。なかでも、日本を威圧するサイバー戦争の力はもとより、三戦の巧みさは日本を圧倒している。

 その第一は、心理戦であり、外交圧力、風評、嘘、嫌がらせを使って不快感を表明し覇権を表明するなどはお茶の子さいさいなのだ。

 第二は、メディア戦に他ならない。ワシントンにつくった中央電視台(CCTV)のスタジオは、ニセCNNともいうべきであり、本物のニュースに宣伝をまぎれこませ4000万以上の米国人をだましているというのだ。

 第三は、法律戦であり、現行の法的枠組みの中で国際秩序のルールを中国の都合に合わせて勝手に解釈し平気で書き換えることも辞さない。

 中国が多国間協議を嫌い、二国間協議でフィリピンやベトナムを抑え込もうとするのは常套戦術である。ASEAN諸国が中国に抑え込まれるのは多国間協議をできずに、個別の利害につけこまれるからだ。トランプと付き合う日本は、台湾を切り札にしかねない米中の「大取引」に反対し、日本を両国の手駒にさせない決意を改めて固めるべきだろう。

※週刊ポスト2017年1月1・6日号

関連記事

トピックス

ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン