「誤解を恐れずにいえば、私は患者が望めば、延命治療を中止する尊厳死だけでなく、薬で死に至らせる安楽死も認めていいと思っている。少なくとも自分が死ぬ際は尊厳死を選ぶつもりです」
小野寺氏の終末期医療は、患者の意思を最優先する。その一環として、稀ではあるが、強く希望された場合に施すのが『終末期鎮静』である。
「これは、耐え難い苦痛を取り除くために睡眠薬や麻酔を用いて、患者に眠ったまま最期を迎えさせる処置です。
鎮静は、本人が希望しても家族の反対があるとできません。痛みに呻き苦しんでいる患者を見ると、いたたまれない気持ちになることもあります」(小野寺氏)
終末期の患者のために、あえて一切の治療を行なわない選択をする医師もいる。『平穏死という生き方』の著者で、特別養護老人ホーム・芦花ホーム常勤医の石飛幸三氏だ。
「私は尊厳死と呼ばずに、7年前から“平穏死”と呼び、提唱しています。年老いた体が食べ物を受け付けなくなるのは“人生の終わりのサイン”。だから、食べたくないなら、無理に食べさせなくていい。積極的に薬を投与して死に至らせる安楽死とは全く異なるものです」
同施設では入所した段階で、延命措置を施さないことに対するコンセンサスが入所者とその家族にはかられている。だが、いざ辛い状況を目の前にすると心変わりする家族も少なくないという。石飛氏が続ける。
「病状が変わるたび、家族とわれわれ職員で、たとえ口論になっても、何が本人のためかを徹底的に話し合う。私は平穏死が本人のためになると確信しているから、一切、迷うことはありません」
※週刊ポスト2017年2月17日号