◆妻の遺体はあるのに……
「墓石がずれて傾いてしまったため、豪徳寺から『修復のために墓の構造を調査してくれ』と頼まれた。そこで墓石の地下を確認したところ、中には何もなかった」
こう語るのは、当時、墓の調査を依頼された世田谷区教育委員会の担当者である。翌2010年には改修工事に伴う地盤調査で、東京工業大学が地下3メートルまでレーダーを使って調査をしたが、やはり遺体が納められている石室は見つからなかった。
この時、隣に建つ直弼の妻(正室の昌子)の墓には石室が確認された。つまり直弼の遺体だけが消えていたのだ。この調査結果に井伊家の地元である滋賀県彦根市は大騒ぎに。地元紙でも盛んに報じられた。豪徳寺に調査結果に対する見解を尋ねたが、
「大老のご遺体が埋葬されていないとは聞いておりませんし、寺として“ご遺体は埋葬されている”と認識しております」
と回答。調査結果についての言及はなく、なんともあいまいな答えだった。