ライフ

【著者に訊け】呉勝浩氏 描き下ろし長編『白い衝動』

呉勝浩氏が自著『白い衝動』を語る

【著者に訊け】呉勝浩氏/『白い衝動』/講談社/1600円+税

 祖父母がなぜ日本に渡り、大阪育ちの両親がなぜ青森にいたのか、「詳しい事情は何も聞いていないんです」。大阪芸大映像学科卒業後、大阪に残り、2015年に江戸川乱歩賞受賞作『道徳の時間』でデビューした呉勝浩氏(35)は笑う。

「よく僕は社会派みたいなことを言われるんですが、正確には自分派なんですね。自分が抱えてきた疎外感や世の中に対する違和感を、エンターテインメントの形で物語化したかった」

 最新長編『白い衝動』がつきつけるのも、犯罪者や異常性癖者に対する社会の受け入れの問題だ。ある時、私立〈天錠学園〉のスクールカウンセラー〈奥貫千早〉は、高等部1年〈野津秋成〉から驚くべき相談を受ける。

 賢く家族関係も良好な彼は、学内で飼う仔山羊が傷つけられた「ゲンジロウ事件」は自分の仕業だと告白した上で、〈人を殺してみたい〉と言うのである。〈先生にとって邪魔な人間はいませんか?〉〈ぼくに、その人を殺させてくれませんか?〉と。

 大学で社会心理学を学び、助手から臨床の現場に転じた千早の研究課題は、〈包摂と共生にいたる心理〉。包摂とは要するに私たち社会の側の受け入れ態勢のことだが、千早は〈特異なキャラクターの持ち主に一方的な努力を強いること〉に抵抗を覚える心理学者だった。

「つまり社会的異物の矯正に重きを置く考え方に対し、社会の側ももっと変われるはずだと千早は言う。でもそれは理解できない存在に恐怖を抱き、つい触れないでおこうと思ってしまう人々に〈自己否定〉を強いることにもなる。僕自身、いざとなったら彼らを受け入れられるのかという自問が、少年Aの自伝が出たりする中で執筆の原点でした」

関連記事

トピックス

炊き出しボランティアのほとんどは、真面目な運営なのだが……(写真提供/イメージマート)
「昔はやんちゃだった」グループによる炊き出しボランティアに紛れ込む”不届きな輩たち” 一部で強引な資金調達を行う者や貧困ビジネスに誘うリクルーターも
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
藤浪晋太郎(左)に目をつけたのはDeNAの南場智子球団オーナー(時事通信フォト)
《藤浪晋太郎の“復活計画”が進行中》獲得決めたDeNAの南場智子球団オーナーの“勝算” DeNAのトレーニング施設『DOCK』で「科学的に再生させる方針」
週刊ポスト
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
「漫才&コント 二刀流No.1決定戦」と題したお笑い賞レース『ダブルインパクト』(番組公式HPより)
夏のお笑い賞レースがついに開催!漫才・コントの二刀流『ダブルインパクト』への期待と不安、“漫才とコントの境界線問題”は?
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン
韓国・李在明大統領の黒い交際疑惑(時事通信フォト)
「市長の執務室で机に土足の足を乗せてふんぞり返る男性と…」韓国・李在明大統領“マフィアと交際”疑惑のツーショットが拡散 蜜月を示す複数の情報も
週刊ポスト
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
高校時代にレイプ被害で自主退学に追い込まれ…過去の交際男性から「顔は好きじゃない」中核派“謎の美女”が明かす人生の転換点
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《死刑執行》座間9人殺害の白石死刑囚が語っていた「殺害せずに解放した女性」のこと 判断基準にしていたのは「金を得るための恐怖のフローチャート」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《小室圭さんの赤ちゃん片手抱っこが話題》眞子さんとの第1子は“生後3か月未満”か 生育環境で身についたイクメンの極意「できるほうがやればいい」
NEWSポストセブン
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
【独占インタビュー】お嬢様学校出身、同性愛、整形400万円…過激デモに出没する中核派“謎の美女”ニノミヤさん(21)が明かす半生「若い女性を虐げる社会を変えるには政治しかない」
NEWSポストセブン