「今回は治療だけに専念してみては」――医師の助言にふたりが出した結論は「子供も治療もあきらめない」という選択だった。2014年秋に元気な男の子が誕生し、奈緒さんは治療に専念。

 しかし、すでにがんは肝臓や骨などに転移しており、2015年2月11日、奈緒さんは29才の若さでこの世を去った。長男が誕生してから、わずか112日後に訪れた別れだった。

「いろんな病院をかけずり回って、もしかしたら、奈緒の負担を増やしただけだったのかもしれません。でも、守りたかった。絶対に。そんなぼくたちの想いとは関係なく、奈緒の病気は進行していた。

 奈緒は、その時を家族と一緒に迎えました。神戸にある施設は、治療をしながら一緒に生活できるという、患者と家族の生活の質に配慮した専門機関でした。24時間一緒で、家に居るような心持ちになれました。ママになって3か月の奈緒にとっては、息子と一緒にいられることが何よりだと思ったんです。

 転院してからの奈緒は、意識ももうろうとして、担当のお医者さんの名前もわからないぐらい。でも、息子とぼく、家族のことだけは、ずっとわかってくれていました。前日の夜には、奈緒、息子、ぼくと3人で川の字で横になりました。病室をのぞいた家族からは、“いつもの幸せそうな光景だった”って。それから何時間もしないうちに、さよならの時がきました。ぼくは奈緒の腕に寝ている息子を抱かせて、病室を出ました。母子ふたりだけにしてあげる時間が、奈緒にも息子にも必要な気がしたんです」

※女性セブン2017年3月30日・4月6日号

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