「血圧が高いかたが自然分娩をすると、さらに血圧が上がり、最悪の場合は脳出血で亡くなることがありますが、無痛分娩ならそうした危険度が低下します。麻酔をかけると心肺機能の負担も減るので、心臓病のかたにも適している。精神的にストレスや痛みに弱く、出産に恐怖心を感じるかたにもおすすめです」(林先生)
冒頭のA子さんのように、初めての赤ちゃんを自然分娩で産んだ時の激痛が忘れられず、2度目の出産を避けようとする女性は多い。無痛分娩はこうした女性の出産を後押しする効果もある。母体だけでなく、赤ちゃんの負担が軽くなることも大きなメリットだ。
「自然分娩時に痛みのため母体に余計な力が入ると、血管が収縮して胎児に酸素が届かなくなる可能性がありますが、無痛分娩ではこうしたリスクを避けられます」(林先生)
少子化に苦しむ自治体も無痛分娩には大きな期待を寄せている。
群馬県下仁田町は今年度から、無痛分娩の費用にかかる費用の2分の1を上限10万円まで補助する施策を始めた。
「これまで日本には“お腹を痛めて産んだ子供だから愛着がわく”という文化がありましたが、ネットなどで体験談や海外の事情が伝わり、今後も無痛分娩を選ぶ女性は増えていくと思います」(林先生)
だが、「痛くない出産」がリスクも孕んでいるのも現実だ。
◆呼吸不全で出産後に死亡
5月10日、日本産婦人科医会は、出産を扱う全国約2400の医療機関を対象に、過去3年間で実施した無痛分娩の実態調査をすると発表した。きっかけは今年1月に大阪府の産婦人科医院で発生した事故だった。無痛分娩を選んだ31才妊婦が呼吸不全で意識不明になり、出産後に死亡したのだ。
厚労省の調査でも、2010年から2016年に起きた妊婦死亡298例のうち、無痛分娩が13例あったことがわかっている。
「今年4月、同省は無痛分娩を行う全国の医療機関に対し、急変時の体制を充分整えるよう緊急提言を出していた。日本産婦人科医会の発表は、これらの動きを受けてのものでした」(全国紙記者)
5月19日には、無痛分娩による出産が原因で当時36才の女性が死亡したとして、遺族が担当した男性院長を業務上過失致死の疑いで刑事告訴している。この女性は2015年8月、神戸市の産婦人科医院にて無痛分娩で出産をした後、子宮内から大量出血して意識不明となり、約1年後に急性循環不全で死亡した。前出の林先生が語る。