戦前のスポーツ実況と称するラジオ放送には、今だとありえないものがあった。たとえば、電波のとどかない遠隔地の野球中継。電話で知らされた試合の様子を、原稿用紙に書きとめる。それをアナウンス室へもちこみ、実況風にラジオでつたえたりもしていたらしい。「第一球、なげました。ボール!」というように。
いっぽう、一九六〇年代末期には、フォーク・ソングのソノシートで、新しい試みがはじまった。ライブの場で聞こえるヤジ、怒号なども、レコードにおさめる録音が。夾雑物もまじってこそ、リアリティがある。そんな感受性のめばえを、著者はそのあたりにかぎとっているようである。
※週刊ポスト2017年6月9日号