「乳房と命のどっちを大事に考えるかは、本人の価値観の問題でもあります。ですが、“切らない”選択をする患者は珍しいです。以前は乳房の下の筋肉もすべて切除していましたが、医療の進歩によってがんの場所いかんでは乳腺を取る程度で、早期なら乳房の形もあまり変わらずに一部切除で済みます。リンパ節への転移など進行している場合には広い範囲での切除が必要になりますが、それでも近年は乳房の再建手術の技術も発達しています」(前出・土屋氏)
それでも、麻央さんのように「切らない」選択をした患者にはどう対処するのか。
「抗がん剤や放射線をうまく組み合わせていくことになります。抗がん剤を投与してがんの動きを弱めたり、サイズを小さくし、残ったがん細胞に放射線を当ててやっつける。あるいは、手術の代わりに放射線治療を存分に行い、抗がん剤を併用するといったことが考えられます。それだけで治せる可能性もゼロではありません。
ですが、それはあくまで早期であることが大前提ですし、かなりの少数派。手術と化学療法の併用が基本であることはいうまでもありません」(前出・土屋氏)
命の尊さ、夫や家族への深い愛情、姉との強い絆…麻央さんは、多くのものを遺して天国へ旅立った。そして、麻央さんの闘病を見て、乳がん検診を受診した20~30代の女性も数多い。
乳がんと向き合うと、重大な選択が次から次へと迫る。切る切らないという選択もその1つ。切る切らないにどう向き合えばいいのか…私たちが知っておかなければならないこれらの選択肢もまた、彼女が遺してくれたものなのかもしれない。
※女性セブン2017年7月20日号