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【書評】震災後の日本人には怖いほど現実感漂うディストピア

【書評】『グラウンド・ゼロ 台湾第四原発事故』/伊格言・著/倉本知明・訳/白水社/2700円+税

【評者】川本三郎(評論家)

 このところ白水社から翻訳出版される台湾の現代小説から目が離せなくなっている。呉明益の『歩道橋の魔術師』、甘耀明の『神秘列車』と『鬼殺し』。どれも面白かった。本書は、台湾の原発事故を描いた暗い近未来(ディストピア)小説で、怖いほどの現実感がある。二〇一三年に台湾で刊行されたが、二年先の二〇一五年に原発事故が起きる設定になっている。日本の福島での原発事故の重大さを受けて書かれたのではないか。

 その年、台湾北部にある第四原発で突然メルトダウンが起る。台湾全土が大混乱におちいる。原発で働いていたエンジニアが主人公になる。彼は奇跡的に助かったが、事故のあと記憶を失っていて、肝腎の事故当日のことが思い出せなくなっている。ただ夢のなかに手がかりになるような映像が時折りあらわれる。

 三つの時間が重なり合う。事故前の二〇一四年。エンジニアは児童養護施設で育った女性と付合っている。その頃から仕事場である第四原発に何か不備があるのではないかと不安にかられている。さらに二〇一五年。原発で原因不明の大事故が起る。エンジニアは記憶を失う。恋人は消息を絶つ。死んでしまったらしい。

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